懸命に生きていたら、いつか伏線回収がやってくる| 枝優花のかつての私と対話する旅。
作品づくりは、大の大人たちが人生を賭けて本気の嘘をつく、おかしな仕事だ。
しかし嘘だらけのなかから生まれる感情だけは本物で、ときどき作り手自身も救われてしまう。
そして作品を撮り終えたときには、もう最初に脚本を手にしたころの自分は存在していない。過去の私と今の私は、もうすっかり別人だ。それでも解りたい、知りたい、自分を。しかしどうにも過去をすぐ忘れてしまう。性に合わないが、 過去作と照らし合わせながらあのころと今の私を掘り下げていこう、というのがこの連載だ。
さて、このエッセイも4回目になった。そろそろ話すこともなくなってきた感じがあるんだけど、いけそうか自分?
というのも「内省が趣味なんですか」ってぐらい自分について振り返ることが多い人生だったが、最近そこにも飽きてきたのだ。なんで生きているのか?ああ、もういいだろ。考え尽くしても答えがないなって感じでさ。まあ…どうせまた悩んで、ああだこうだする未来も見えてるんだけどさ。
PROFILE
PROFILE
枝 優花
映画監督・脚本・写真家
1994年群馬県生まれ。映画監督、写真家。2017年、主演に穂志もえかとモトーラ世理奈を迎えた初の長編映画『少女邂逅』を発表。「MOOSICLAB2017」で観客賞を受賞したほか、国内外で高い評価を得る。そのほかMrs. GREEN APPLE、マカロニえんぴつ、羊文学、anoなど様々なアーティストのミュージックビデオ撮影や、アーティスト写真撮影も手掛ける。また、ドラマフィル「コールミー・バイ・ノーネーム」(MBS ほか/演出)、ドラマイムズ「ゲレンデ飯」(MBS ほか/演出)、ドラマフィル「彩香ちゃんは弘子先輩に恋してる 2nd Stage」(MBS ほか/演出)など
直感の理由を紐解く日々
2023年ごろ、私は正直ドラマをつくることに疲れを感じていた。スケジュールや予算が過酷ななか、自分を削って絞り出したものに喜びを得られなくなっていた。さらに、もともと大人数が苦手で、ずっと輪の中心に居続ける環境に耐えられなくなっていた。もうドラマ、休みたいな……。かといってじゃあどうしたらいいかな、楽に生きられたらいいのに。
てか、生きるってなんだっけ。しんどい。なんて思っていた矢先、前に作品を一緒にやったプロデューサーから「今から飲みましょう」と呼び出された。普段だったら絶対に行かないのだが、なぜかその日は行こうと思った。
そこに行くと、私を慕ってくれていた若手のスタッフがいた。ひさしぶり~なんて嬉しい再会も束の間、急にドラマの企画書を出された。「この作品、枝さんとやりたいんです」と。私は「やられた!」と思った。だって自分を慕ってくれている可愛い後輩が初めて通した企画で、それを直接オファーされたら……。ええ、断れません。ドラマ、休もうと思っていたのに。
とはいえ、返事を保留し帰宅。ふと「原作、なんてタイトルだっけ」と思い、企画書を読み返すと既視感。なんと本棚にその漫画があったのだ。半年前にたまたま手に取って買ったまま、読んでいなかった漫画。それが「ワンルーム・エンジェル」(原作 はらだ)という物語だった。
それがわかった瞬間「あ、もうこれはやれってことだ。やったほうがいい」と直感で思った。ほんと、普段はぐだぐだ左脳で考えるくせに、決断は完全に右脳の私だ。そんな流れでこのドラマを撮ることを決めた。

あらすじ
生きる意味を見失っていたコンビニ店員の幸紀(上杉柊平)が、チンピラに刺されて瀕死になった際に出会った美しい「天使(西村拓哉)」との、不思議な共同生活を描く物語だ。死んだと思いきや完治した幸紀の家に記憶喪失の天使が居座り、生きる意味を見出せずにいた幸紀は天使との交流を通じて、人生に彩りを取り戻していく。
今思えば、これがすべての始まりだった気がする。このドラマで出会ったプロデューサーやスタッフたちは自分の人生において大切な仲間になっている。とはいえ最初は「もうドラマやりたくない」モードの自分は警戒心が強かった。少しでも傷つく予感がしたら戦おう、とちょっと狂犬モードだった。今だから言えるけど。でも、それも杞憂だった。もともと手加減できない性分。気づけば、幸紀と天使のために人生を捧げて死のう、くらいの気持ちで向き合う自分に。お、重い。毎回愛が重いよ…。
「人生、クソ」という幸紀のセリフから始まるこのドラマ。しかも、腹を刺されて死にかけるとこから始まる。なんとまあ。でもわかる。だって撮影は夏で、スケジュールもさることながら本当に過酷だったから。本当、今だから言いますけどね、クソみたいでしたよ!

途中、熱中症になってそれが拗れ5日間熱が下がらず、38℃の体温で現場をやっていた。幸いにも室温が45℃くらいだったので悪寒に苦しむことはなかった。夏はそれがいい。…と、冗談はさておき、精神的にも随分追い込まれた。何せ「生きることに意味を見出せなかった2人が出会って、人生をもう一度生きようとする話」なのだから。それなりに腹を括るような瞬間があった。生きるとか死ぬとか、中途半端に向き合えない。四六時中2人のことを考えていた気がする。誰かの幸せを祈ることは簡単でも、実際に幸せをつくることは本当に難しい。
それは自分自身が「なぜ生きているのか」という問いに対して、答えが出せていなかったからだと思う。2人の幸せを考えると必ず自分に跳ね返ってくる。答えがわからないなか、どうしたら誠実であれるのか。怖かった。わかった顔で誰かの人生を語りたくなかった。キャストやスタッフに頼りながら、毎日問い続けた。そんな中途半端な私をみんなは全力で支えてくれた。
てか、ドラマなんてさ、全部嘘なんだよ。大の大人たちが人生かけて大嘘をついている。この嘘をどうしたら本物にできるか、本気で考えている。天使なんて誰も見たことはないのに、羽について何時間も打ち合わせしたりするおかしな仕事。
でも、だから好きだったんだ。それを思い出した。私はただ、誰かと本気で何かをしたかったんだ。でも、いつしか物わかりばかりよくなり、いろいろな都合を考慮して仕事をするようになって、本気の出し方がわからなくなって心が死んだ。

私は役や物語について脚本に書かれていないところをどこまでも掘り下げ、考え抜いて話すところがある。そこまで追い込んでようやく全てが立体的になり、現場で役者やスタッフを引っ張っていくことができる。しかしこれまで、それがどこか周りとの多少の温度差を感じる要因であり、自分だけ本気な重たさがあり、「仕事」と「想い」のバランスを取ることも必要なのかなと悩んでいた。それがこのドラマで自分と同じ重さの想いで打ち返してくれる、むしろ「本気を出さないとダサい」と思わせてくるような仲間に出会った。
今でも覚えている。撮影初日、ずっと紙の上で向き合ってきた幸紀と天使が動いている光景を目の当たりにして、「これから1ヶ月の間で彼らを幸せにしたい」と1人モニター前で思っていた。この重たい感情は自分だけだろうけど、それでも自分との約束を守りたい、と。すると隣にいた照明技師がポツリと言った。「いやあ、楽しみですね。これから2人がどうなっていくのか」と。たったそれだけだったが私は本当に嬉しかった。自分と同じように嘘の世界を本当のことのように想って作品に向き合ってくれる人が横にいる。ただそれだけで心強かったし、幸せだと思った。
それから撮影が進むにつれ、そのスタンスが全スタッフにあるとわかった。「彼らは本当に今この感情なのか?本当は寂しいんじゃないか?」と思ったら相談する。そうしたら皆で一緒に彼らについて考える。実際には幸紀なんて存在しないのに。紙の上に書かれた文字の存在でしかなかった彼らについて、生きている人間たちが本気で考える。嘘を本当にするための大事なプロセス。「たかだか深夜ドラマじゃないですか」なんて誰も茶化したりしない。嬉しかった。自分の温度とみんなの温度が一緒で、それがここは居場所なんだと感じられて。こうして私は蘇生した。ていうか、手加減したら殺られるな。じゃあ、やるしかないでしょ、みたいな感じだった気がする。(どこのヤンキー漫画ですか?)

とはいえ結局ドラマが終わるまでの半年間、生きることについての答えは出なかったし、今もその答えは出ていない。なぜ生きているのか。全然わからない。あれから何度か「もう死んでもいいか」と思ってしまう日もあったし、ふと「なんか長生きしても良いかも」とか思う日もあった。どうでもいいことに傷ついたり、しょうもないことで明日が楽しみになったり。人生はよくわからない。
それでもあのころよりも、わかったことがある。「人生は悪くない」ということ。これはドラマの最後に幸紀が言うセリフ。人生は最高!とは嘘でも言えない。だってそれなりにクソなことも意味わからないことも起きるから。落ち込むし泣くし理不尽極まりない。けど、やっぱりなんだかんだうまくできている。あのころの最悪も、懸命に生きていたらいつか伏線回収がやってくる。このためだったんですね~、じゃ最初から教えておいてよ~みたいな。まあ結末を知ってたら面白くないから、我々は「結局なんだかんだうまくいく自分で書いたシナリオ」を忘却し、人生ゲームを楽しんでいるんでしょうね。はいはい、この世は巧妙だ。

とまあいろいろあったけどさ、今その仲間たちと一世一代の本気の大嘘をつこうとしているんだ。どうせつくなら、特大の嘘を手加減なしでやった方が面白いでしょう。この嘘をどうしたら本物にできるか、本気で考えて作品を作っている。ああ生きてるって感じがする。
そして嘘と言ったが、それによって生まれた感情だけは本物だ。嘘から生まれた本物がどれだけ美しいか、私は知っている。なんておかしくて不思議な仕事なんだろう。だから好き。そのことを、このドラマと向き合うなかで思い出せて、本気を出しても笑わない仲間に出会えた、本当に宝みたいな時間だった。感謝しかない。

こうやって人生で起こる出来事の一つひとつが「なぜ生きているのか」を理解するための瞬間なら、人生のアレやコレも悪くないのかもしれない。そしてまたわからなくなって内省する。一生自己哲学を追い求める、これが私の性分なのでしょう。諦めました!うん!
▼information
「ワンルーム・エンジェル」
huluにて独占配信中
【原作】はらだ「ワンルーム・エンジェル」(洋伝社)
【出演】上杉柊平、西村拓哉、
田中洸希、おいでやす小田、長谷川京子
【監督】枝優花
【脚本】綿種アヤ
【制作】スタジオブルー
【製作】「ワンルーム・エンジェル」製作委員会・MBS
ドラマ公式X:@one_an_drama
Edit:田畑 咲也菜