安井達郎が訪ねる、日本のものづくりの現場
モデルとしての活動に加え、映像作家として自身の表現を追求し続ける安井達郎さん。プライベートでもカメラを持ち歩き、そこで撮影した写真は、連載「妻と過ごす写真のある日」でも紹介してきました。
そんな安井さんのカメラ愛が高じて、今回、編集部とともにカメラバッグを製作することに。コンセプトは、「ファッションも、カメラの持ち運びも、どちらも妥協しないカメラバッグ」。
製作パートナーには、日本の職人技術を生かし、シンプルかつ機能的なプロダクトを生み出す「VU PRODUCT(ヴウプロダクト)」を迎え、既存商品の別注(※)を進めています。
今回は、その過程で訪れた製造工場見学の様子をレポート。バッグが完成するまでの道のりを追いながら、現場で見えてきた日本のものづくりの実情に迫ります。
※別注:通常ラインナップにはない仕様を、特別に注文して製作してもらうこと
PROFILE
PROFILE
安井 達郎
モデルとして雑誌広告等に出演する傍ら、映像作家としてnever young beach、indigo la EndなどのMV監督を務める。近年は自身のYouTubeにて日常を切り取ったVlogを発信している。2023年より写真家としての活動をスタートさせる。
@tatsuroyasui https://www.youtube.com/@tatsuroyasui日本が誇る精巧なものづくりとその背景にある実情
2026年1月下旬、大阪府東大阪市──
安井さんと訪れたのは、主にバッグや革製品を手がける株式会社イマイです。

1977年の創業以来、長年にわたって培ってきた技術と柔軟な開発力を強みに、さまざまなブランドの商品づくりを支えてきたという同社。VU PRODUCTの一部商品も手がけており、今回のカメラバッグもここで製作が行われています。
私たちを温かく迎え入れてくれたのは、営業担当の土屋さん。この日は、製造工程の説明に加えて、現場の案内をしてくださいました。

土屋「では、バッグの製造工程について詳しくお話ししましょうか」
そう言って土屋さんが机に広げたのは、今回製作しているカメラバッグのサンプル型紙(以下、パターン)。商品の素材や仕様が決まったあと、最初に取りかかるのがこのパターン製作で、そこからサンプル完成・チェックを経て、裁断、縫製と工程が進んでいきます。
今回は既存商品の別注であるものの、もともとのデザインがあったとしても、パーツを一つ変更するだけで縫い位置などが変わるため、パターンはほぼゼロから引き直す必要があるのだとか。

イマイでは、社内にパタンナーは常駐しておらず、契約を結んでいる個人の方に製作を委託しています。自社で商品企画からブランド・店舗運営までを担うメーカーではパタンナーが在籍していることが多いものの、他社製品を製造するメーカーの場合、パターン製作は外注が一般的なのだとか。その背景について尋ねると、土屋さんは少し表情を曇らせながら、こう語りました。
土屋「本当は社内にパタンナーがいるのが理想なんです。技術のある人もたくさんいますし、だからどの会社も育成しようとはしているんですが、なかなか人が根付かないんですよね。というのも、どんなに価値のある仕事でも、日本ではその価値が伝わっていなくて、どうしても給与が低くなってしまうんです。
ヨーロッパではパタンナーの価値が高く評価されていて、試験に通れば国が給与を保証してくれる制度もあるんですが……。日本ではそういった制度もないので、職人さんも子どもに継がせたがらないんですよ」

こうした背景から、業界ではパタンナーの高齢化が大きな課題に。実際、メーカーに所属するパタンナーは50〜60代が中心。個人で活動している場合は70代でも「若手」と呼ばれるといいます。今回、私たちのバッグのパターンを手がけてくださっているのも、70代のパタンナーさんなのだとか。
机の上に広げられたパターンを見てみると、その仕上がりは驚くほど精巧。安井さんも型紙を手に取りながら、「一つひとつが本当に丁寧に作られていますね」と、思わず感嘆の声をもらしました。
端に刻まれたトゲのようなものは、縫製時にパーツ同士を正確に合わせるための目印。それぞれのパーツがぴたりと組み合わさるよう、緻密に設計されています。


ここが少しでもずれると、シワが寄ったり、形が崩れたりと仕上がりに影響が出てしまうため、非常に重要な工程なのだとか。特にバッグは立体物。必要となる印の数も服と比べて圧倒的に多くなります。
その作業を支えているのが、70代の職人さんであるという現実。日本のものづくりについて、あらためて考えさせられる時間でした。
手仕事に現れる、メイドインジャパンの信頼性
次に向かったのは、イマイの製造現場。ここではサンプル完成後、量産工程に入ったバッグの裁断や縫製を行っています。

裁断には大きく分けて二つの方法があります。一つは、パターンの形に合わせて金属製の型(以下、金型)を作り、それを素材に押し当てて抜いていく方法。もう一つは、バンドナイフと呼ばれる裁断機を使い、一枚ずつ手作業で裁断していく方法です。

基本的に革製品は、金型で裁断を行いますが、サイズが特殊で金型を作れないものや、革以外の素材を使用する場合は、バンドナイフで裁断するそう。私たちが製作しているカメラバッグはナイロン製のため、バンドナイフでの裁断となります。

裁断されたパーツは、職人さんの手によって一つひとつ丁寧に縫製されていきます。さまざまなミシンを使い分けながら進められるその仕事ぶりは圧巻。現在製作中のカメラバッグも、最終的にはここで縫い上げられます。



土屋「大量生産をするための機械はどんどん進化していて、技術的にもすごくレベルが上がっています。でもやっぱり、一つひとつ手で仕上げるからこそ、見えない部分まできれいに整えられたり、細かなほつれなども見落とさずにいられるんですよね。日本の素材は丈夫で上質。だからこそ、きちんと縫製することで長く使えるいいものを作りたいと思っています」

いいものを作るために手間を惜しまないこと。それは裏を返せば、時間も人手もかかるということです。実際、一度に生産できる量が限られていることから、事業を畳む日本のメーカーは年々増加。また、黙々とした作業を求められる現場環境によって、求人を出しても人が集まりにくく、人手不足も深刻化しているといいます。
それでもイマイがこの作り方を続けてきたのは、「日本製の信頼を失ってはいけない」というプライドがあるから。その信念のもと、丁寧な縫製はもちろん、検品も100%行い、安心できる品質を守り続けてきました。

そしてその想いは今回、カメラバッグの製作に協力いただいているVU PRODUCTも同じだといいます。
同ブランドの商品は、素材はすべて日本製、製造も国内で行っています。ブランド立ち上げ当初、海外でより安価に生産するという選択肢もありましたが、職人さんの高齢化や技術の衰退といった現実を目の前に、「日本のものづくりを残したい」とメイドインジャパンを貫くことを決意したそう。

素材選びや細かな縫製によって生まれた商品は、思わず見惚れてしまう佇まいでありながら、安心して使えるものばかり。今回ご一緒することになったのも、安井さんがVU PRODUCTの商品を見て、「これ、すごくかっこいいですね」と口にしたことがきっかけでした。日本のものづくりが、私たちをつないだのです。

工場見学を終え、最後に安井さんに感じたことを聞いてみました。
安井「日本の丁寧なものづくりは、これからもずっと続いてほしいと思いますし、僕たち自身も『安いから』という理由だけで選ぶのではなく、手間暇かけて作られた“いいもの”を選んでいかなければいけないと感じました。今作っているカメラバッグが、少しでもそうした実情を知るきっかけになればいいなと思います。
VU PRODUCTさん、イマイさんの日本のものづくりへの信念がこもった素敵な商品になると思うので、ぜひ楽しみにしていてほしいです」
カメラバッグは現在製作中。発売をどうぞお楽しみに。




Photo:金原 理梨香
Text&Edit:しばた れいな