映画『片思い世界』スチールカメラマン・江森康之インタビュー「大切なのは、映画の世界に没入すること」

2025年4月4日(金)に、全国公開される映画『片思い世界』。広瀬すず、杉咲花、清原果耶が奇跡のトリプル主演を果たし、映画『花束みたいな恋をした』の監督・土井裕泰と脚本家・坂元裕二が、再びタッグを組んだ本作は、悩み迷いながら、誰かを思い続けることを止めない、究極の“片思い”の物語です。

あらすじ

現代の東京の片隅。
古い一軒家で一緒に暮らす、
美咲(広瀬すず)、優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)。
仕事に行ったり学校に行ったりバイトに行ったり。
家族でも同級生でもないけれど、
お互いを思い合いながら他愛のないおしゃべりをして過ごす、
楽しく気ままな3人だけの日々。
もう 12 年、強い絆で結ばれているそんな彼女たちの、
誰にも言えない“片思い”とはーー。

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本作のスチールカメラマンは、『花束みたいな恋をした』でも同役を務めた写真家の江森康之。彼に、撮影にまつわるエピソードやスチールカメラマンとしての心構えについて、お話を聞きました。

PHOTOGRAPHER PROFILE

江森 康之

PHOTOGRAPHER PROFILE

江森 康之

1979年生まれ埼玉県出身。
高校時代より写真を撮り始め、2003年に写真集『映画赤目四十八瀧心中未遂』でデビュー。
ポートレート、映画スチール等を中心に活動中。

ストーリーではなく、ディテールを切り取りたい

ーー今回、映画『片思い世界』のスチールカメラマンを担当することになったきっかけについて教えてください。

『片思い世界』の企画を手がけているリトルモアの孫家邦さんから、「土井監督と坂元さんの脚本で映画を撮ることになったから、スチールを担当してほしい」と連絡をもらったのがきっかけです。クランクインまで、ちょうど1年といったタイミングでしたね。

孫さんは『花束みたいな恋をした』の企画もプロデュースされており、ご一緒させていただくのは今回で2度目でした。僕だけでなく、撮影、録音、照明、衣装、メイクなど、多くスタッフが前回と同じメンバーだったので、「『花束みたいな恋をした』チームで再び映画を作り上げよう」という思いがあったんじゃないかと。

ーーオファーをいただいたときの心境はどうでしたか

『花束みたいな恋をした』の撮影を終えて、「もっといい写真が撮れたはずだ」と思っていたので、今回は前回以上の写真を撮りたいと考えていました。

というのも、前回は久しぶりのスチール撮影ということもあり、思うように立ち回れなかったんです。映画のスチール撮影は、独特な雰囲気の中で的確なポジショニングが求められるのですが、必要以上に遠慮をしてしまって……。

『花束みたいな恋をした』
監督:土井裕泰 脚本:坂元裕二
ⓒ2021「花束みたいな恋をした」製作委員会
Blu-ray&DVD発売中/デジタル配信中

ーー撮影にあたって、どのような準備をしましたか。

特別な準備はしませんでしたね。カメラも『花束みたいな恋をした』のときと同じものを使用しました。というのも、前回使用したカメラが、サイレントシャッターかつ被写体の歪みも最小限に抑えられるという点で、スチール撮影に最適だったんです。

あとは、事前に脚本を読みました。ただ、脚本からストーリー全体を解釈して、それに基づいた構成を練る……といったことはしませんでしたね。僕は、映画のスチールは、ストーリーよりもディテールを撮った方がいいと思っていて。

(左から)優花(杉咲花)、さくら(清原果耶)、美咲(広瀬すず)

例えば、坂元さんの脚本の場合、一文に撮るべきものが凝縮されているんです。「バスに乗っている美咲、優花、さくら」という記述があれば、その背景や理由を深く考えるのではなく、「バスに乗っている3人の姿」を切り取ることに注力する。

もちろん全体のストーリーも意識はしますが、それを表現することは、スチールに求められてはいない気がしていて。むしろ脚本を視覚化した写真の方が、ポスターやパンフレットなどに使いやすいんじゃないかなと思います。

ーー脚本を初めて読んだときの印象について教えてください。

役者の会話を軸とした作品でありながら、スチールのイメージが自然と浮かんでくる脚本でした。読み進めながら、「このシーンがポスターによさそうだな」と感じることもありましたね。

ただ、実際の現場に行くと、想像していたものと違うことも多かったです。例えば、3人がバス停まで走るシーンは、一般的な道を想像していたものの、実際は木のトンネルのような場所だったり。撮影当日まで、どのような情景になるかわからないことも多いですが、その予測不能さが、スチールカメラマンのおもしろさでもあるなと思います。

『花束みたいな恋をした』があったから、撮影を楽しめた

ーー撮影は、主にデジタルカメラで行いましたか?

そうですね。そもそも当初は、デジタルカメラですべての撮影を行う予定でした。

しかし、宣伝部の方から「オフショットは、インスタントカメラで撮影してみてはどうか」と提案をいただいて。ただ、撮影現場ではフラッシュを焚けず、インスタントカメラだと暗く写ってしまうんですね。そのため、オフショットは、明るいレンズを装着した一眼レフカメラやコンパクトカメラを持ち込んで、撮影を行いました。

デジタルカメラで撮影されたティザーポスター

ーーメインポスターも、フィルムで撮影されたそうですね。

そうなんです。ティザーポスターは、撮影済みのスチールから選定したのに対して、メインポスターは専用の撮影日を設けて撮影しました。

メインポスターも、デジタルカメラで撮影しましたが、撮影終了後に宣伝部の方から「フィルムでも撮影してほしい」とご要望をいただいたんです。そのときには、僕も役者の皆さんも、撮影が終わった安堵感からとてもリラックスしていたので、結果としてそのときに撮影した写真が、最も自然な表情を捉えていたんですね。

フィルムで撮影されたメインポスター

スタッフからも「心を打たれました」という感想をいただき、リラックスの大切さやフィルムの力をあらためて実感しました。宣伝部の方からの提案がなければ、デジタル写真がポスターに採用されていたと思います。

ーー今回の撮影で、大変だったことや苦労したことがあれば教えてください。

今回は、『花束みたいな恋をした』での気付きを活かせたので、大きな苦労はありませんでした。

例えば、役者の意識はムービー用のメインカメラに向くので、そのカメラのライン上だと撮りやすいんです。前回は、メインカメラと異なる方向から撮影してスタッフが映り込んでしまったり、遠慮しすぎてメインカメラと同じ方向からの撮影機会を逃してしまったり。現場での遠慮のさじ加減に、すごく苦労した記憶があります。

今回は、その反省を活かして、適度に遠慮しつつも、メインカメラの下などをポジション取りできたので、楽しみながら撮影できたと思います。

ーー撮影現場で印象に残っていることはありますか?

最も印象に残っているのは、広瀬さん、杉咲さん、清原さんのソロポスター撮影です。映画本編の撮影ではないため、セットの照明は使わず、映画の雰囲気を損なわないスチールにすることが求められました。

そこで、美しい自然光のある場所を探し出し、最適なタイミングでお三方それぞれに声をかけて撮影を行いました。役者の皆さんには、役柄の感情を保ったまま撮影に臨んでいただきたかったので、撮りたい心情のみを伝え、それ以外のコミュニケーションは極力控えましたね。

撮影場所や時期は出演者ごとに異なりましたが、あらためて写真を見返してみると、それぞれが作品の世界観を表現した印象的なポスターに仕上がったと感じています。

大切なのは、「撮らなきゃ」ではなく「撮りたい」と思うこと

ーースチールカメラマンとして立ち回る上で、気を付けていることはありますか?

本番が始まったら、素早くポジションを決めて、それ以降は移動しないようにしています。カメラに顔を隠して、まるで岩のように動きません(笑)。

僕は、スチールカメラマンとして「とにかく芝居を撮らなきゃいけない」という気持ちがあるんです。ときには役者の目の前で撮影することもありますが、完全に静止していれば、役者も気にならないですよね。逆に、少しでも動いたり、視線を感じさせたりすると、芝居をしづらいと思うので、カットがかかるまでは気配を完全に消して、演技の邪魔をしないように心がけています。

ーースチールカメラマンを務める上で、大切な心構えは何でしょうか?

映画を撮ろう、と思わない方がいいと思います。「カットを押さえなければ」という義務感よりも、「自分が撮りたくて撮っている」という自主性を持つことで、楽しく撮り続けることができます。日常生活で「この光が綺麗だから撮影したい」と感じるように、照明スタッフが作り出す光を見て、「撮りたくてしょうがない」と思えるかどうかが重要ですね。

特に、僕はドキュメンタリー体質なので、どこかでフィクションだと思ってしまうと、心が離れてしまう傾向があって。モチベーションを保つためにも、映画の世界に入り込むことが大切なんです。

作品に没入すると、撮影中に感情が揺さぶられますよ。予告編にも使用された、広瀬さんが涙を流しているシーンでは、撮影しながら泣いていました。ずっと映画の世界に入り込んでいることもあり、帰宅後もしばらく現実に戻れないような感覚になることもありましたね。

ーー最後に、『片思い世界』のスチール撮影を経て、あらためて感じたことがあれば教えてください。

土井監督や坂元さんが手がける作品は、誰もが楽しめるエンターテインメントの真髄だと考えています。僕はアンダーグラウンドの出身ですが、このように多くの人々に届く作品に携われるのは、とても嬉しいですね。

『片思い世界』は、観終わった後も余韻に浸ってしまうような作品に仕上がっている思うので、ぜひ多くの方に楽しんでいただきたいです。

▼information

映画『片思い世界
【公開日】2025年4月4日(金)
【監督】土井裕泰
【脚本】坂元裕二
【出演】広瀬すず、杉咲花、清原果耶/横浜流星/小野花梨、伊島空、moonriders、田口トモロヲ、西田尚美
【配給】東京テアトル、リトルモア
©2025『片思い世界』製作委員会

名場面を、写真とともに。

広瀬すず、杉咲花、清原果耶。そして横浜流星。
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貴重なオフショットも。
劇中の台詞も一部収録し、映画の世界をぎゅっと閉じ込めた永久保存版。

一軒家でともに暮らす3人の女性。
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『花束みたいな恋をした』のチームが贈る、涙と笑顔の感動作。
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Text / Edit:しばた れいな