映画『架空の犬と嘘をつく猫』監督・森ガキ侑大インタビュー「無添加の映画を届けたい」
2026年1月9日(金)に、全国公開された映画『架空の犬と嘘をつく猫』。
『川のほとりに⽴つ者は』で本屋⼤賞にノミネートされた寺地はるなの同名⼩説を、監督・森ガキ侑大が映画化。主演・高杉真宙をはじめ、伊藤万理華、深川麻衣、安藤裕子、向里祐香、安田顕、余貴美子、柄本明ら幅広い世代の実力派俳優たちが集結。本作は、ある家族の30年にわたる“嘘”と“愛”の物語です。

あらすじ
弟の死が受け入れられない母のため、弟のフリをして母に手紙を書き続ける、小学生の山吹。空想の世界に生きる母、愛人の元に逃げる父、夢を語ってばかりの適当な祖父と“噓”を扱い仕事をする祖母、そして“嘘と嘘つきが嫌い”な姉。一つ屋根の下に住んでいながらもバラバラに生きている家族の中で山吹は今日も嘘をつきながら成長していく―。
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監督を務めたのは、映画『愛に乱暴』で世界の映画祭を沸かせた森ガキ侑大監督。これまで家族の姿を描いてきた彼にとって、家族とは何なのか。ロケ地の佐賀県や作品に込めた想いについても伺いました。
PROFILE
PROFILE
森ガキ侑大
大学在学中にドキュメンタリー映像制作を始める。卒業後、CMプロダクションに入社し、CMディレクターとして活動。17年に独立してクリエイター集団「クジラ」を創設し、以来、Softbank、JRA、資生堂など多数のCMの演出を手掛ける。同年、長編映画デビュー作『おじいちゃん、死んじゃったって。』がヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞。世界映画祭にて多数ノミネートを果たす。近年の作品では『愛に乱暴』(24)にて第58回カルロヴィバリ国際映画祭にてクリスタルグローブコンペティションにて正式出品。
「今の時代だからこそ届けたい作品」だと思った
ーー原作を読んだとき、どのような印象を受けましたか。
お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、羽猫家の長男の「山吹」も長女の「紅」も色にちなんだ名前なんです。その名付け方が、遊園地を作りたいと夢に抱いた祖父の正吾を起点とする羽猫家の価値観を象徴しているというか……。なんだか独特で、寺地先生ならではだなと。
全体としては、やわらかい雰囲気に包まれながらも“毒”があるように思いました。毒というのは家庭環境の問題や登場人物たちの葛藤のこと。そういった苦しみに向き合って生きていく羽猫家に、なぜか光を感じたんです。
僕が小説を映画化するときは「今の時代だからこそ届けたい作品」を選んで、引き受けています。本作も、そのひとつになりました。

ーー森ガキ監督の長編デビュー作である映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』も“家族”をテーマとした作品でした。家族についてどのようにお考えですか。
ひとことで言えば「表裏一体」ですかね。自由を奪って、縛られて、時にめんどくさいと思う。そうは言っても、計り知れないめぐみを与えてくれるんですよね。
突然ですが、家族の喧嘩って、どうでもいいことから始まりません? 俯瞰してみると滑稽に見える。その滑稽さと切なさ、両方を描くようにしていますね。
ーー映画化にあたって、いちばん意識されたことは何ですか。
30年という長い歳月を、どう映画で表現するか、かなり悩みました。例えば、ビフォーアフターで景色を変えて見せることも、回想シーンをたくさん盛り込むこともできたと思うんです。もし、そういう演出を望まれるのであれば、僕は辞退しようと思っていました。
せっかく30年を描くのだから、観客のみなさんも一緒になって30年間を過ごしたような感覚になってもらいたくて。それくらい、見せ方にはこだわりたかったんです。

プロデューサー陣とは「子どもの成長を楽しんでいただきたいですね」と話していました。そうなると、子役が重要になってくるわけですよ。
幼少期から中学期までの長男・山吹役と長女・紅役を決めるために、東京と福岡で500人規模のオーディションを実施しましたね。パッと見の印象はもちろん、中身も重視して選ばせていただいて。異なる3人が並んでも「同じ人生を歩んできた」と言えるキャスティングになったと思います。
佐賀の人にも、そうでない人にも親近感を
ーー佐賀県古城市、佐賀市、唐津市をはじめとした7市30箇所で撮影されたそうですが、ロケ地の数としてはかなり多い印象です。
いや、そうなんです。30年もあれば、登場人物が成長するとともに行動範囲も広がるので、そのリアリティを大切にしたくて……。
制作を進めていく中で、必然的にロケ地の数が増えましたね。数の多さで言ったら、これまで制作した映画の中でトップ3に入るかもしれません。

「佐賀といえばここだよね」と佐賀の人に共感してもらえそうな景色と、山や稲穂のような、誰もが目にする普遍的な景色を融合したのも、こだわりのひとつです。
宮川プロデューサーからは「僕らスタッフもキャストも、佐賀の街に住んでいるような感覚になりました」と言ってもらえて。どなたにも親近感をもってもらいやすい映画になったと思います。
ーー特に思い入れのある場所はありますか。
寺地先生の故郷である、唐津ですかね。唐津には札の辻橋があって歴史を感じます。そういう古いものと新しいものが織りなす街並みが魅力的だなと思います。
ーー今回の撮影を通して気づいた“佐賀の魅力”を教えてください。
佐賀は川が多いし、水もきれいだし、ごはんもおいしい。僕は広島の人間ですが、居心地がよすぎて、いつか本当に住みたいなと思っています。
人でいうと、日本ならではの奥ゆかしさを感じますね。映画作りにおいても、舞台挨拶のときもそう思いました。

ーースチール撮影は写真家の西山勲さんが担当されていますが、どのような経緯だったのでしょうか。
映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』の制作時に紹介いただいたことをきっかけに、お仕事でご一緒しています。初めて西山さんの写真を見たときにはドキッとしましたし、僕が求めている世界観と近いと思ったんです。
そんな西山さんに撮っていただくのですから、メイキング用の写真として撮影するだけではもったいないというか、違うなと。僕のわがままで、西山さんにも原作の小説を読んで、内容を理解いただいたうえで撮影いただきました。

抑揚をつけず、静かな感情を大切に
ーーキャストのみなさん一人ひとりにお伝えしていたことはありますか。
そもそも、今って社会全体がせわしないじゃないですか。情報が流れるスピードがどんどん早くなって、長い尺の動画は見てもらえなくなって……。映画監督である僕が言うのもなんですが、“5秒映画”なんてものが世に出る未来も遠くないと思うんですよ。
そんななかで、「僕らはゆったりとした上質なものを、ていねいに描いていきましょう」とキャストのみなさんにはお伝えしていました。あえて抑揚はつけない。ある意味「時代に逆行した映画」を作りたいなと。

ーー「抑揚をつけない」といえば、音楽もそうでしたね。
登場人物の感情を“音”で煽るようなことはしたくなかったんです。自然音や沈黙、キャストの呼吸といった、静かな感情を大切にしようと心がけました。
特に注目してもらいたいのは、バスの中で長男・山吹が家族に思いをぶつけるシーン。狭い空間に感情が漂う感じと言いますか……。ここから逃げられない“家族の圧”のようなものを描きました。

ーー今後、どのような作品や表現に挑戦していきたいですか。
オリジナルの企画ですね。実は、ずっと温めているものがあるのですが、お披露目はいつになるやら(笑)。その日を楽しみにお待ちください。
ーー最後に、観客のみなさまへメッセージをいただきたいです。
最近ポッドキャストを始めたんです。父・淳吾役の安田さんにゲスト出演いただいたときに「(本作を)忙しい人に見てもらいたい」と言ってくれて。その言葉が今でもすごく心に残っています。
僕の口から言わせてください。忙しい人に見てもらいたいです。あ、全員ですね(笑)。劇場やスクリーンサイズで演出しているので、ぜひ映画館でご覧ください。
5秒動画のことを“添加物”というのであれば、“無添加”の映画をお届けします。

▼information
映画『架空の犬と嘘をつく猫』
【公開日】全国公開中
【出演】高杉真宙、伊藤万理華、深川麻衣、安藤裕子、向里祐香、ヒコロヒー、鈴木砂羽、松岡依郁美、森田想、高尾悠希、後藤剛範、長友郁真、はなわ、安田顕、余貴美子、柄本明 ほか
【監督】森ガキ侑大
【脚本】菅野友恵
【原作】「架空の犬と嘘をつく猫」(中公文庫)
【配給】ポニーキャニオン
©2025 映画「架空の犬と嘘をつく猫」製作委員会
Text: Re!na