自分らしい写真を見つけるまで #写真家放談 |yansuKIM

誰でも手軽に写真が撮れるようになった1億総カメラマン時代。たくさんの写真が溢れるなかで、どうすれば自分の写真の存在感を出すことができるのか、毎日悩みながら写真を撮っている。今回は写真に向き合い続ける道のりで出した、僕なりの答えを書いてみようと思う。

僕がカメラを手にしたのは大学1年生の頃。動機は、カメラとか持っていたら素敵だな、くらいの軽い気持ちだった。「なんかいい感じに撮れる」らしい、販売員さんに言われるがまま買った50mm単焦点のレンズ。「なんかいい感じ」でパシャパシャ撮っていたけれど、しばらく経ったら飽きて、そこから1年間カメラの存在を忘れてしまっていた。思い出したのは続けていた音楽をやめて、表現する場所を失った大学2年生のタイミング。毎日モヤモヤしていて、何かないかと探しているときだった。

クローゼットの奥から、ほこりまみれになったカメラを引っ張り出し、とりあえず撮ってみる。なんだか楽しくなってきてパソコンで色をいじってみると、さらに「なんかいい感じ」に。そのままスマホに送って、SNSにあげると意外にも良い反応。そういうことを繰り返していくうちに、写真を撮ることが好きになっていった。それからは毎日カメラを持ち歩くようになって、カメラが好きな人たちに教えてもらったり、逆に教えたりする日々を過ごした。カメラを通して人と出会う機会も増えると「この人の写真、好きだな」という、何となくの感覚も身についてくる。撮る楽しさで心が満たされていく感覚があった。

ある日、飲食店のバイト先の店長からメニューの写真を撮ってほしいとお願いされた。店長は優しいから使ってくれたけれど、自分としてはまったく納得できない結果だった。お店で見るような美味しそうな写真が撮れない。何をどうすればいいのかも分からない。初めて人のために写真を撮る機会を得て、初めて写真で後悔することを経験した。

しかし、振り返るとこの経験が、本当の意味で写真を好きになったきっかけだ。どんな勉強をすれば自分の撮りたいイメージを表現できるのか、どんな経験を積めばあの人のような写真が撮れるのか、自分なりに考えて勉強を始めることにした。そこから人のために写真を撮る機会が増えて、撮ることも少しずつ上手くなった。自分が撮った写真で人が喜んでくれる姿を見て、これを仕事にしたいと思えた。

実際に、大学卒業後は都内のスタジオに入って、アシスタントの仕事に就いた。はじめて身近にフォトグラファーがたくさんいる環境では、他人と自分を比較する機会も増える。「こんなにも写真が溢れる世の中で、君はどんな写真を撮るんだ?」と、常に問いかけられているような感覚があった。スタジオに入って1年、激務の中で経験と技術はどんどん身についていくけれど、自分らしい写真は見つからない。「作品撮り」という名目で色々撮ってみたりカメラを変えてみたり、ライティングを工夫してみたり、「トーン」をつくって写真にのせてみたりしたけれど、何となく違う気がする。先輩や同期がすごく「らしい」写真を撮っている中で、僕のも、まあ悪くはないと思うけれど、それが「らしさ」なのかどうかと聞かれたら答えられなかった。

2年目に入って余裕ができたこともあり、仕事の合間に人に会いにいく機会を増やしたり、絵や映画を観にいく時間をつくるようにした。自分は何が好きで、何が嫌いで、他人から見た自分はどんな人間なのかを知りたかったからだ。自分についてひたすらに考えた先にたどり着いた答えは、「食」だった。食べること自体も、料理を作ることも、食べ物を撮ることも含めて、何より生活のできごとを写真に収めることが好きなのだと気づいた。自分の正直な「好き」という感覚を深掘っていくうちに、スタンスが見えてきたのだった。

きっと、写真というのは撮る人の「こうありたい」「こうあってほしい」という気持ちの現れというか、願いみたいなものなのだ。それが強く出れば出るほど、個性として写真に現れてくる。つまり、それが「らしさ」だ。僕は「誰かのために」という気持ちが強すぎて、レンズ越しの自分の気持ちやわがままをおざなりにしていた。それこそが「らしさ」を見えづらくしていた原因だ。それに気づいてからは、自分の中の「願い」と、わがままを聞きながら撮るようにした。続けているうちに、周りからも「あなたっぽいね」と言われるようになったし、僕自身もそう思えるようになった。

フォトグラファーとして独立して5年目。声をかけてくれる人たちは、僕の仕事の成果物としての写真、個人制作の作品としての写真、世界観や得意不得意に合った依頼をくれる。自分らしい写真が撮れているからなのだと思う。でも一方で、今のままの「らしさ」でいることが嫌だという想いもある。変化する自分もいるし、新しいこともやっていきたいからだ。だから、まだまだ「らしさ」は変わっていくのかもしれない。そして、それもまた、僕らしさだと思う。

編集:竹本 萌瑛子