「光」と「陰」の交差点 #写真家放談 |コハラタケル

僕は逆光よりも順光もしくはサイド光での撮影が好きなのですが、自分の好みから来ているというよりは機材に影響されているのが大きいです。

僕が初めてカメラを購入したのは27歳。Canonのカメラが初めてだったのですが、1年間で4回しか使わず、すぐに売ってしまいました。これはCanonのカメラが悪かったのではなく、レンズキットを買ってしまったからです。

今でこそズームレンズも使いこなすことができますが、写真の知識がまったくなかった当時、僕にとってズームレンズでの撮影は難しく、どう撮れば良いのか、そして何よりも写真を撮るという楽しさを得ることなく終了しました。

「写真は向いてないんだな」本気でそう思った日から約3年の月日が流れます。

次にカメラとレンズを買うきっかけはYouTube。当時、Peaceful CuisineのTakashima Ryoyaさんの動画を見ていたのですが、

「自分もこんな感じの動画を撮ってみたい!」

と思い、GH4とコシナの単焦点のレンズを購入しました。そう、単焦点だったんです。Takashimaさんに本当に感謝ですね。しかも使っているレンズがF0.95という超絶明るいレンズだったため、写真を撮るのが楽しいのなんの。

ズームレンズが悪いというわけではありませんが、僕はズームレンズは中級者から上級者向けだと考えています。世の中に売られているレンズキット、もしくは家電売り場の販売員さんは「単焦点レンズというものもありますよ!」と一度は勧めて欲しいものです。おそらく、写真の楽しさを知る前にズームレンズで挫折している人は多いのではないでしょうか。(愚痴ってすみません)

というわけで最初は「GH4+コシナ」の組み合わせで動画を始めようと思ったものの、性格的に時間がかかる作業が苦手なため、徐々に写真へシフトしていきます。

GH4は気に入っていたのですが、元々、動画用で買ったということもあり、なんとなく写真に特化したもの、そしてボディの見た目が心くすぐられるものが良いと思い、カメラを探す旅に出たのです。

というわけで次に登場するのが保井崇志さんです。

写真といえば駅や街中を歩いているときに見かける広告の写真、そしてコンビニや本屋で見る雑誌の写真しか頭になかったのですが、Instagramで保井さんの写真を見たとき衝撃でした。


「こういう写真もあるのか……」

直感的かつまたまた「僕もこんな写真を撮りたい!」となってしまいました。そこからのスピードは早く、GH4とコシナのレンズを売り、FUJIFILMのXT10とXF35mm XF56mm を購入します。

黒の美しさとAPS-C

さて、ここからようやく光と影の話に入ります。随分と前置きが長くなってしまったのですが、光と影を説明するにあたり、この部分を抜かして説明することはできません。ポイントは大きく分けて2つあります。

・保井崇志さん

・FUJIFILM

「さっきも言ったじゃん」と思った方もいると思いますが、まあ聞いてください。保井さんの写真を一度でも見たことがある人ならわかってくれると思うのですが、黒が美しいんです。


基本的に写真は明るいほうが目を引くため、僕がこれまで見てきた広告・雑誌の写真は明るい印象でした。しかし、保井さんの写真は僕が今までに見たことがないものでした。 

当時は写真についての勉強も始めたばかりだったので、そもそも写真を見ている数や種類が圧倒的に少なかったというのも理由のひとつです。そういう状況もあって僕にとっては保井さんの写真は新鮮かつ衝撃的でした。

保井さんの写真は逆光でふわーっとしたものやフラットな光の写真は少ないです。当然、僕も保井さんの写真を真似して、スナップを積極的に撮りに行き、現像も似たような調整をしていました。ひとりで撮りにいっては黙々とシャッターを切り、帰って写真を見返しては試行錯誤の繰り返し。



そのうち保井さんだけでなく、いろんな方の写真を見ているうちに逆光のふわっとした写真も撮ってみたい欲が増していきます。

が。 

(なんかしっくりこない……) 



僕が使っていたFUJIFILMのXシリーズのカメラはAPS-Cのため、逆光撮影時のシャドウの明るさを持ち上げた場合の描写力の維持がフルサイズのカメラに比べ、弱いように感じました。 

それでも頑張って撮ってはいたものの、順光写真のほうがバシッと決まるので、徐々に逆光の写真は撮らなくなっていきました。撮ったとしてもシルエットの写真が多かったです。

光じゃなくて影を探す

さて、このまま過去話に自分で勝手に盛り上がっているだけで終わるわけにはいきません。実際に僕が撮影するときに何を意識しているのかも話していきましょう。 

写真を撮っている人であれば光が綺麗な場所を見つけると「わぁ! (光が)綺麗!!」とまるで導かれるようにして光が指す方へ向かっていくことが多いと思います。 

もちろん僕もそのようにして導かれることもありますが、生粋の人見知り陰キャな性格もあってか現場では光を探すというよりは影を先に探すことが多いです。とにかく暗いところ。理想としては薄暗いところを求めて彷徨います。


以前、北海道の札幌へ行ったとき、道が広すぎて困った経験があります。道が広いと、ほとんどの場所に光が当たってしまうからです。結局、大通りから脇道に入り、さらに脇道の脇道へと入っていきました。とにかく暗い方へ進み、影のなかから光を探します。スポットライトのような光を求めるという感じです。 

だから路地裏が好きだし、東京という街が好きなのかもしれません。狭い道ほど、光と影の演出は複雑になっていきます。撮影のときはとにかく狭い道を探して、どんどん人気(ひとけ)がない方へ進んでいきます。

狭い道といえば僕の出身の長崎県も狭い道が多いです。写真は自分の人生が反映されると誰かが言っていました。長崎にいた頃は写真なんて全然、撮っていませんでしたが、やはり影響を受けているのでしょう。



「保井さん」「FUJIFILM」「東京の街」 

この3つの点が交差したことによって、僕は光と影がある写真を好きになっていきました。今後はどうなるのでしょうか。自分でもまったくわかりません。もしも北海道に移住したら、逆光写真が好きになるのかもしれませんし、蟹の写真ばかり撮って蟹グラファーになっているのかもしれません。

……というのは流石にないか。