家族と旅 #写真家放談|石川祐樹

ブラジリアン柔術の指導者であり、SNSを中心に写真家として活躍する石川祐樹さんによる家族と旅に関するショートコラムをお届け。旅先では必ず家族の写真を撮ってきたという石川さん。世界的なコロナウイルスの流行後は、彼の写真をどのように変えたのでしょうか。


石川祐樹/Yuki Ishikawa

1975年生まれ、福岡県出身。アリゾナ州立大学在学中にブラジリアン柔術と出合う。競技者として柔術に向き合いながら、指導者として道場「カルペディエム」を設立。プライベートでは2児の父。第一子である長女は先天性心臓疾患を持って生まれ、娘の姿を残そうと写真を撮り始める。2014年に自身初のフォトエッセイ『蝶々の心臓』を上梓し、以降もInstagramを中心に写真を発表。その写真は高く評価され、小説の表紙にも採用されている。

Instagram:@yuki_ishikawa_photo


僕は中判のフィルムで家族の写真を撮っている。キューバに行っても、フランスに行っても結局は家族しか撮ってないので本当にその国に行ったのか信じてもらえない。どこに行っても「ギューギュー写真」を撮る。妻と子供二人がギューっと抱きしめあっている写真。これを旅の最終日にやることが多い。この写真は台湾。全く台湾の要素は無いんだけど、僕が覚えているから台湾で間違いないと思う。

僕らはとにかく旅行が好き。特に海外。3年前はベトナムに行った。エアビーで予約した宿はサイトで見た写真とはかなり雰囲気が違って暗くて怪しいアパートだった。妻はちょっと怒っていたけど、まあ仕方ない。ハノイでは特にやることも無かったので町をブラブラと歩いたりして、それはそれで楽しかった。僕らの旅はいつもそんな感じ。帰国するために空港に向かうタクシーで運転手さんに「マスクをした方が良い」と言われた。「え?マスク?」それが僕らにとってのコロナ禍の始まりだった。

コロナ禍で一番辛かったのは「海外に行けない」ことだった。仕方なく僕らは国内旅行に切り替えることにした。国内旅行も、なんとなく行きにくい雰囲気はあったのだけどとりあえず京都に行ってみた。有名なお寺や観光地もガラガラだった。ほとんど人がいない清水寺。あんなことはもうこれからは無いんだろうな。無いほうが良い。お寺には鳩がいるもので、娘は毎回鳩に囲まれてしまう。僕には一羽も寄ってこないのに。

下町に住んでいたおばあちゃんの家に行くことが増えた。家は路地にあって滅多に車も通らないから好きに遊べる。急にコロナ禍になっても子供達はすぐには「ニューノーマル」に馴染めない。僕はマスク姿の子供の写真を撮っていない。僕はジャーナリストでもないし、写真で社会問題を切り取る気もない。だから、マスクをしなくて良い時だけシャッターを切った。子供の口元ってすごく表情豊かで魅力的だと思っている。

夏といえばカブトムシ。カブトムシを見つけた時のあの興奮は筆舌に尽くし難いものがある。僕は子供の頃からカブトムシとクワガタが大好きだ。子供達とカブトムシ達のお世話をするのは楽しいが、増やしすぎて30匹くらいになった時は大変だった。コバエが発生したりして生活にも支障が出るほどに(笑)。家族会議して「しばらくはカブトムシを自粛しよう」ということになった。

2年前の秋には妻の両親と一緒に家族旅行をした。義理の父は病気を持っていて心配だったんだけど、旅行は楽しんでくれていたと思う。これが最後の旅行になってしまった。義理の父は若い頃は釣りが好きだったそうだ。この旅行で孫と一緒に釣竿を持てたのはきっと嬉しかったんじゃないかな。無口で静かな人だった。

息子はまだ幼稚園生。スーパーヒーローが大好きで家の中は「武器」だらけ。バットマンは刀を持ってないと思うけど、その辺の細かい設定は気にしないタイプらしい。ご存じでない方も多いと思うけど僕の本業は「柔術」という格闘技。自分の息子と「格闘」するのは若い頃からの夢だった。「パパはバットマンより強い?」と聞かれたら「アレは映画だから」と現実を突きつけることにしている。

子供の顔を正面からしっかりと撮るのが好き。沢山撮っている。フィルムなので一枚一枚のコストも大きい。「ちょっと!目を瞑ってたんじゃない!?」と焦ることもあるけれど子供だから仕方ない。息子の瞳にはカメラを構えた僕が映っている。僕しかカメラを持たないので僕の写真はほとんどない。それでもいい。たまにこうして子供の瞳に映りたい。目の下の怪我もいい思い出。

夏の知床は本当に気持ちよかった。朝晩は寒いくらい。例年は大きな観光バスで沢山の外国人がやってきているホテルに宿泊したけど、コロナ禍の影響でほとんどお客さんもいないようだった。窓から海を眺めていたら、娘も同様に外を見ていた。「おいおい、あまり乗り出すなよ。落ちちゃうよ」と注意しながらも、あ、コレ撮りたいなと思った。せっかくだから息子も一緒に入れちゃおう。息子は本当に危ないから、妻が息子の両足をしっかりと固定した状態で撮影した。この写真を見るたびにその時の滑稽な舞台裏を思い出して愉快な気分になる。

3年ぶりの海外旅行!タイに行ってきた。ずっと日本を飛び出したかった。でも、僕らは国内旅行も大好きになった。日本にはまだまだ魅力的な場所が沢山あることに気づけたから。それと、“写真のため”ではなく、家族と過ごすための旅行をしたいと思えるようになった。写真の師匠に言われた「撮らないことも大事だよ」の言葉をやっと理解できた気がする。