クリエイターが影響を受けた一枚 vol.16 #身近に存在する愛おしさ

 

“編集思考”とアートディレクションを武器に、新たな価値を生み出すデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。

そこで活躍するアートディレクターやデザイナーが、影響を受けた写真家を紹介する連載企画「クリエイターが影響を受けた一枚」。

第十六回は、アシスタントデザイナー土江瑚子が「身近に存在する愛おしさ」をテーマにお話します。

株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート

株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

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THEME :身近に存在する愛おしさ

私は幼少期から家にある身近なものに影響を受けて、デザインに興味を持つようになりました。

当時、デザインや写真の知識にも乏しかった私が、ふと家の本棚の写真集を見た時に初めて「自分はこういうものが好きなんだ」と新たな扉を開かれた感覚になりました。

これが私がデザイナーを目指したルーツです。今回は、それらの写真集から選んだ写真と、そのときの自分自身の感覚を振り返りながら紹介したいと思います。

 Peter Lindberg / 10 Women by Peter Lindberg

Peter Lindberg(ピーター・リンドバーグ)は20世紀において最も象徴的で礼賛されるファッション写真の数々を世に生み出したと言われている写真家。

この写真集は、世界のトップで活躍する10人のスーパーモデルを一堂に集めたPeter Lindberg初の写真集です。

『10 WOMEN』 Kate Moss, Linda Evangelista, Paris, 1988 © Peter Lindbergh (Courtesy Peter Lindbergh, Paris)

私は、彼の撮る女性像が本当に好きです。ありのままの姿をモノクロに投影しただけで、被写体の自然な美しさを最大限に引き出していることに魅了されます。メイクアップは最小限に留め、写真のレタッチも避けるという彼の写真では、人工的で大げさなスタイリングとは好対照のモデル達が、本質的な輝きをこれでもかと放っているように感じます。

この写真集を何度見ても、被写体のスーパーモデル達に目を奪われ、美しさの真実を突き付けられたような気持ちになります。初めてこの写真集と出会ってから時間を経た今でも消えぬ残像として、私には残っています。 

Stephan Schacher / PLATES + DISHES : the food and faces of the roadside diner

Stephan Schacherはニューヨークとスイスを拠点に活動する写真家で、世界の半分以上の国を横断して、数多くの国際的な広告キャンペーンを撮影してきました。彼の写真はさまざまな国、経験、視点から、見るものを楽しませ、驚かせてくれます。

©︎Stephan Schacher

この写真集は、アメリカのハイウェイのロードサイドにあるダイナーのメニューと、サーブしてくれたウェイトレスのポートレートを集めた作品集です。リサーチ、アポなしの完全なるドキュメンタリーで、ダイナーカルチャーだけでなく地方に暮らす人々のリアルなドキュメントが収められています。 見開きでプレートとウェイトレスを魅せる構成で、写真の料理は実際にStephanが食べたフードを掲載しています。

この料理があまりにも魅力的で、アメリカのダイナーカルチャーを現地で体験してみたいと思わせてくれます。それらを切り撮る、どこかノスタルジックな色味に心惹かれます。飾らない雰囲気の伝統的なスタイルからカジュアルでジャンキーなものまで、料理だけでなく、登場する人々の多様性にも驚かされます。

それと同時に私が感じたのは、地方で働く人々は誰もがフレンドリーだとは限らないということ。しかし誰もがぱかっと心を開き、快く撮影を受け入れてしまうような、彼の魅力的な人柄無しにはこの写真集はできなかったのではないでしょうか。

土江秀知 / ポートフォリオ

写真家だった私の父は、当時、ファッション分野でアシスタントカメラマンをしていました。服飾専門学校のデザイン科を卒業後、イギリス、フランスへ遊学し、その後日本の撮影スタジオに入社。その後はフリーランスとしてカメラマンをやっていました。家に今もあるファッション関連の写真集は全て父が当時集めていたものです。

私はこの写真が父が過去に撮ったものであると、昨年まで知りませんでした。黒くて重たいファイルに写真がいくつも収められており、誰かの写真集かと思ったら父のポートフォリオで驚愕したのを今でも覚えています。

その中からセレクトした一枚は、鏡を挟んだ女性の姿を投影した写真。一つのページに同じ写真を二枚、大きさ別でファイリングしているのも何か意図しているのでしょうか。私にとっては初めて見る構図です。モデルは特にポージングなどしておらず、わざとらしさは皆無。シルエットの切り取り方が直感的に自分の好みに刺さりました。見ている側に想像力を与えてくれる、この余白感が私はたまらなく好きです。


ここまで挙げてきた写真を通して一つ感じたことがあります。 それは、私はありのままの、あくまでもリアルを映した飾らない写真が好きなんだ、ということ。今回紹介した写真は、ありふれた日常や生活、そして自然体であることを、どこか愛おしく思わせてくれました。自分が幼いころから身近にあった写真達を改めて見つめることで、過去の自分に立ち戻って自身の感覚と向き合うことができ、無意識に見過ごしていたものを再認識できたような気がします。