クリエイターが影響を受けた一枚 vol.14 #白い点と黒い点が生み出す余白
“編集思考”とアートディレクションを武器に、新たな価値を生み出すデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。
そこで活躍するアートディレクターやデザイナーが、影響を受けた写真家を紹介する連載企画「クリエイターが影響を受けた一枚」。
第十四回は、アシスタントデザイナー足立大昂が「白い点と黒い点が生み出す余白」をテーマにお話します。
株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート
東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。
THEME :白い点と黒い点が生み出す余白
人は白黒写真が好きだ。好きなはずなんだ、と僕は思う。
19世紀に感光材料が発明されてから、肉眼で見るより色鮮やかで息を呑むような1億何万画素の超高精細な写真を撮影できる現代まで、一貫してなくならないものはモノクロ写真なのではないか。
「かっこいいから」「趣を感じられるから」など好きな理由は人それぞれあると思うが、
僕にとっては、想像の余地、つまり自分が作品に入り込む「余白」があるからだ。
今回は一見難解な、でも入り込んだら抜け出せないモノクロ抽象写真を紹介したいと思う。
Kristina Jurotschkin / NOTHING BUT CLOUDS
©️Kristina Jurotschkin
本書はドイツ在住のビジュアルアーティストKristina Jurotschkinによる作品だ。
タイトルは1972年の映画『惑星ソラリス』から引用した「何も無いが、雲がある(NOTHING BUT CLOUDS)」。何かが潜んでいるかのように見える不気味なビジュアルは、彼女がヨーロッパのさまざまな土地で撮り溜めた、いわゆる「日常写真」のアーカイブから構成されている。
社会的実在性に疑問を投げかける、実に皮肉の効いた作品である。
背表紙に印刷されているタイトルから放たれる異様な存在感に惹きつけられ、非常にコンセプチュアルな作品だと思い手にとった。
ある日は広大に広がる平野、深海の珊瑚群、未知の生物など。そして、またある日には全ページ、グレーのベタ。などその日見たテレビ、食べた物、寝た時間などに影響され姿を変える作品群。
毎回何かを発見できるので見返すのが楽しく、カオティックな見た目とは裏腹に自分を童心に戻してくれる。鑑賞する側の能動的な本能を刺激し、思考の余白にハマる、不思議でたまらない作品だ。
Dorothee Waldenmaier / Fluss
©️Dorothee Waldenmaier
画角一面に水面を映し出した作品。
「水面」それ以上でもそれ以下でもないのに、無彩色になることでその表情が際立つ作品だ。
個人的には風を可視化することに成功しているところが非常に興味深いと思った。
写真を見て、その場に身を置き、そこに吹く風を感じる。
自分の両足が生み出す波紋に汚されず静止する水面、自然が作り出すコントラストはとてつもなく尊く感じる物なんだな、と驚いたのをよく覚えている。
無いはずの自分の居場所(余白)がこれらの写真にはあるのだ。
Alexander rosenkranz city cut off (2015 – ongoing)
いわゆるモンタージュ作品だが、違和感のなかに心地よさを覚える不思議な浮遊感がたまらない作品だ。
上の写真で曇天のなかに高層ビルと煉瓦造りの古い建物が同居している様を見せ、下の写真によって見る人の遠近感を破壊することで、なんでもない風景が貴重な絵画のようなエネルギーを帯びている。
博識ぶって自分の主観を、さもキュレーターかのように述べてしまったのは、この写真の色という余白を補うように、自分の考えにふけってしまったからでは無いだろうか。
そしてこの一連の思考の動きがレーザーコピーというとてもインスタントな手法によって生み出されていると知ったとき、謎の敗北感に襲われた。
この敗北感がまた、たまらないのだ。
冒頭に述べた通り、人は白黒写真が好きだ。好きなはずなんだ、と僕は思う。
なぜなら、人は考えることが大好きだから。
無彩色の写真は、晴天の青、夕焼けのオレンジ、温かみを感じる肌色などの豊かな情報を伝えることはできないが、作品に立ち入る余白を僕たちに与えてくれるのだ。
一見無表情で突き放すように感じる白黒写真だが、その正体は両手を広げて僕たちの考え、哲学を受け入れる、優しい存在なんだと僕は思う。
writing
足立大昂 / Hiroki Adachi
Assistant Designer / Dynamite Brothers Syndicate