クリエイターが影響を受けた一枚 vol.7 #ユーモアの視点

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、クリエイティブの世界で活躍するアートディレクターやデザイナーが影響を受けた写真家を紹介します。第七回は、アシスタントデザイナー・齋藤治郎が「ユーモア」の視点でお話します。


THEME :ユーモアの視点

写真には、その1枚に構図や配色、視線の誘導や奥行きの表現をする、魅力的な表現方法の1つだなと私は思います。
私自身も様々な写真家の作品や写真に触れるようにしていますが、「この写真は○○な構図で~切り取り方や奥行きが△△で~」など写真に理解を示そうと頭を巡らせては、時に理解が遠いことも多いです。
そんな自分でも単純に”いいな”と直感的に感じる作品や写真に共通するものとして「ユーモア」という一つの共有項があります。
知識がなくても、審美眼がなくとも写真一枚から感じる「ユーモアさ」に魅せられ、ついつい手にとって気に入ることが多いです。
今回はそんな”ユーモア”をテーマに深掘りしていきたいと思います。


「懐古と日常のユーモア」富安隼久

富安さんの作品には、たまたま本屋を覗いていた時に出会いました。
その中でも1番好きなのはTTPという写真集の作品です。この写真集は、富安さんの住んでいた学生寮の部屋から見える公園の卓球台を同じ視点・同じ画角で定点観測のように撮っている作品をで構成されています。
作品は、淡々と卓球台を映した写真が続きますが、季節や時間、使う人間によって、卓球台に集う人間の行動や使い方が違います。

©富安隼久

卓球台に乗り日光浴をする人もいれば、日除けにして休む子供、物干しに使う人や 椅子のように座る人など、集う人それぞれの個性や習性を垣間見えることができま す。 どこか懐かしさを刺激される作品たちですが、似たような経験をしたことがある人 は多いのではないでしょうか。 いつも学校の教室から見える光景、自分の部屋から見える外の景色、いつも歩いて いる帰り道が時間や季節、周りの人たちによって色んな表情を自分に見せてくれ る。 富安さん自身のユーモアさを感じるだけでなく、まるで読んでいる自分もその部屋 から見える景色を毎日、眺めているような感覚になり、想像しては、ついクスッと してしまう、そんなユーモアを感じる作品となっています。 

「演出のないユーモア」ジェフ・メーメルスティーン

ジェフ・メーメルスティーンの作品には、ストリートスナップを撮っている写真を 探している時に出会いました。 彼はニューヨークを拠点としている写真家で、ニューヨークの路上や街中で写真を 撮り、インスタグラムに投稿などもしています。 そんなジェフ・メーメルスティーンの作品の中には、街中を走っている写真が数点あります。

©Jeff Mermelstein

時計を気にしながら走るサラリーマン、花束を持ちながら爆走する男性、ものすごく焦っている顔をする男性など、走る人たちを撮っています。ストリートスナップらしさ溢れる写真ですが、ここで一番に魅力に感じるのは、「全てその瞬間にしか起きえない」ということです。
先ほどご紹介した富安さんの作品ですが、ここでは「定点観測のように同じ画角で撮る」という1つの演出があります。ところが、このジェフの写真は演出のない”その場での瞬間”が感じられるのです。

ジェフ自身が、カメラを持ち、「何やらあっちから走ってくる人がいるぞ」と思い、咄嗟にカメラを構え、シャッターを切る。もちろん相手は撮られるために準備もしていないですから、その瞬間の表情をしているわけです。その表情や様子を見て、見ている僕らは様々な想像に掻き立てられる。「花束を持っているから何かのお祝いのために走っているのかな」「あんまり急いでいる表情に見えないけど、この人は実は平静を保とうとしているのかな」など、”生感のある”写真から色々と考えてしまうのです。

そんな演出のない”生感のある”写真は、見ている人の想像を掻き立てるようなユニークさを持っています。

「シニカルなユーモア」ジョエル・マイヤーウィッツ

ジョエル・マイヤーウィッツの作品は時に、若干の皮肉を感じる瞬間があります。
例えば、2つのベンチを写した写真。

©Joel Meyerowitz

右側には、赤いコートの女性と、その女性にキスをする男性のカップル。左側には、1人で本を読む男性。この写真を見ると、どこか鼻で笑ってしまう感覚になるのは僕だけでしょうか。
男女のカップルでアツアツな様子と男性が本に耽けている様子の対比がなんとも皮肉めいたものを感じてしまいます。

同じ写真の中にいると、どこか読書をする男性が寂しく見えてきてしまう。
決して男性を憐んでいるわけでもないのに、「君が1人で本を読んでいる後ろでは、カップルがイチャイチャしてるんだよ。」とつい写真の中の男性に言いたくなってしまいます。
片方の男性が寂しいと勝手に勘違いさせ、心の中で呟かせるような写真です。

また、ジョエルの他の写真で似たようなものは、ある街中の写真があります。
私自身、ジョエルの作品の中でもっとも興味を感じたのは。この写真です。

Joel Meyerowitz

ある街中の様子で、仰向けに倒れている人、そしてその周りの人たちがそれを見ている写真です。
倒れて寝ている人のなんとも言えない躍動感、それを見て驚いているのか引いているのか、迷惑そうにしているのかわからない表情をする周りの通行人たち。
ほとんどの人なら同じような光景を一度は見たことがあるだろう光景だと思います。

一体どんなことがあってこの人が倒れているのかは分かりませんが、この写真でジョエルが見せたいのは仰向けの男性ではなく、周りの人たちなのではないかと私は思います。
もちろん倒れている男性にも異質さは感じますが、その男性に向ける周りの視線と見ているだけで特にアクションは何もないように見える。
こういった、異質なもの(集団の輪から外れ、倒れている男性)と、それに触れないようにする周りの人間から、人本来の習性をどこかシニカルに表現しているように思えます。
この2つの写真から感じる、皮肉っぽさが少し織り混ざったユーモアは時に見ている人の考えを深掘りさせてくるような感覚があります。


今回、私が紹介した写真に、ユーモアを感じるのは、構図や色味、視線の誘導など色んな技法が用いられているからだと思います。
実は紹介した写真の「ここがちょっと面白いな」と思ったところを細かく見ていくと、「実は〇〇の構図だな」、「こういう切り取り方をしているんだな」と発見することができます。(そうかな?と思った人はもう一度写真を見返してみてください!)
私自身もこのテーマで今回記事を書いたことで、当たり前のことかもしれませんが、こうして写真を見た時に感じる「カッコいい」「美しい」などの曖昧な感覚を“なぜ・どうして”と理論的に詰めていくことが、さらにその写真を理解するはじめの一歩になるのではと改めて考えました。


藤治郎 / Jiro Saito
Assistant Designer/ Dynamite Brothers Syndicate


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

HP : https://d-b-s.co.jp

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