クリエイターが影響を受けた一枚 #グラフィックデザインとして捉える

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、クリエイティブの世界で活躍するアートディレクターやデザイナーが影響を受けた写真家を紹介します。第五回は、チーフデザイナー・山越今日子が「写真をグラフィックデザインとして捉える」という視点でお話します。


THEME :グラフィックデザインとして捉える

「私の視線を奪う写真」とは、綺麗な風景や神秘的な宇宙、柔らかい日常の空気感をありのまま映し出した写真よりも、色や形や面で捉えた世界がうかがえる、グラフィックデザイン的美しさを内包する写真です。

元を辿れば大学生時代に触れたBauhausの写真からはじまっているのかもしれません。構図はもちろん、建物の切り取り方、色の切り取り方、影の落ち方まで含めて、1枚の写真がグラフィックデザインとして計算された美しさを映し出していました。それはいままで私になかった視点であり、もしくは日常にあったのに気がつかずに通りすぎていた視点で、デザインや写真の知識が乏しかった私が、初めてグラフィックデザインとして写真を見た瞬間だったように思います。

今回はそういったグラフィックデザインとして捉えた写真を個人的観点でご紹介していこうと思います。

PICZO

フリーペーパーを集めるのが趣味で、外出の際にはそういった冊子をよく貰ってくるのですが、その中でも写真にとても惹かれた冊子がこの「Roppingi Hills Fashion work in progress TOKYO -Spring Issue-」のPICZOさんの写真でした。

六本木ヒルズにあるアパレル店舗のファッション冊子なのですが、合間合間に六本木の風景が取り入れられており、その写真とファッション写真とのコントラストがとてもグラフィック的で見ていてワクワクする構成となっています。

Roppingi Hills Fashion work in progress TOKYO -Spring Issue-掲載PICZOさんの作品
PICZO
Roppingi Hills Fashion work in progress TOKYO -Spring Issue-掲載PICZOさんの作品
PICZO

PICZOさんの写真からは、奥行きを感じる平面構成的美しさにとても魅力が詰まっていると思います。連続する白と黒のリズム、緑の木の間から覗く工事中の幕が敷かれた青い建物の対比。六本木の風景を色や形や面で捉え、グラフィック的な画角で撮影されており、その中にも温度や空気感が伝わる奥行きがあり、ずっと見ていても飽きない美しさを感じました。

デザイナーとしてもこんな視点で写真が撮れたらと憧れます。私も常にこの視点で身の周りを見渡していこうと思わせてくれた写真でした。

藤井保

藤井保さんの写真は言わずもがなとても印象的なものばかりかと思いますが、その中でも土屋鞄製造所と共同で制作されたこの「Form of Harmony」というシリーズに私は一目惚れに近い感情を抱きました。土屋鞄の商品を伊豆大島の風景と共に撮影した作品です。

「Form of Harmony」シリーズの藤井保さんの作品
©︎TSUCHIYA KABAN
「Form of Harmony」シリーズの藤井保さんの作品
©︎TSUCHIYA KABAN

この写真で私が感じたことは、いかに「もの」の特徴を掴み、魅力的に映し出すかということでした。山や地平線といった風景に見立てるように、鞄の美しい角Rが、傾斜をかけることで生まれる緩やかな陰影や曲線美が、自然に気持ちよく溶け込み、人工と自然の調和が成り立ち、鞄の魅力も伊豆大島の魅力も伝わる作品です。ポスターとして使用しても強さを損なわないグラフィックデザイン的魅力を感じます。

そのものの魅力が最大限伝わるような視点や思考を発見することの喜び。これからデザインするうえでそういった喜びの視点を備えていきたいと強く感じた作品です。

伊東祥太郎

伊東祥太郎さんの作品「資生堂 make up tools」
「Makeup Tools」
伊東祥太郎さんの作品「資生堂 make up tools」
「Makeup Tools」

デザイナーであれば一度は目にしたことがあるであろう「資生堂 make up tools」広告ポスター写真。グラフィックデザインとして捉えるという今回のテーマがストレートに伝わりやすい写真ではないでしょうか?

化粧をする上で誰しもが親しみのある化粧道具を用いて撮影されたこの写真からは、構図、色、ライティング、全ての要素を綿密に計算し尽くされた美しさがうかがえます。普段なら気づくことのできない、プロダクトの持つ複雑な構造や形の面白さ(機能美)に真正面から向き合った写真だとおもいました。

個人的にこの写真から、堂々とした力強い大胆さの中に、どこかリアルで生々しく、女性らしさを感じました。それは背景含めたピンクの色あいであり、ライティングであり、プロダクトの持つ色気なのかもしれません。普段は感じられないプロダクトの魅力を最大限感じさせてくれる写真です。1から10まで美しくデザインされたこの写真はきっと一度見たら忘れられない魅力があると思います。

安藤瑠美

安藤さんの写真は偶然見ていたデザインのwebマガジンで知りました。なぜこの写真に魅力を感じたのか考えてみると、新卒時代、大学の先生や卒業生とともに日常の身の回りを「色で捉える」という試みをしていたことがきっかけです。普段意識などせず見過ごしてしまうような線、形、影、光を色として画面におさめることはとてもデザイン的で、目を鍛えるという意味でもとても楽しい活動でした。

安藤瑠美さんの作品
「TOKYO NUDE」
安藤瑠美さんの作品
「TOKYO NUDE」

安藤さんの作品は、私が心がけていた視点とは全く違う視点で捉えられていて、発見と感動を与えてくれた思い出があります。初めてこの写真を見た時「日本にこんな美しい色や形を撮影できる場所があるのか!だけどどこか不思議な場所だな、私もこの景色を見てみたい!」という思いでした。けれどこの景色は安藤さんの視点だからこそ見ることのできる景色なのだと『TOKYO NUDE』という作品集の概要を読むことで深く理解しました。

この作品は安藤さんの持つ合成や加工などの技術を用いて、街の「ノイズ」となるような視覚情報をできるだけ除去し、色彩や配色、雲や建築物までを合成した、虚構の風景です。東京という街の色や形をそのまま写真で捉えるのではなく、色や形を合成し、魅力的な写真へと昇華することはとてもグラフィックデザイン的であり、高い合成技術で作り出されたこの世界はフォトグラファーである安藤さんだからこそできる世界なのだろうと感じました。そういった視点を知る喜びは、デザイナーとしてとても貴重な経験だと思っています。

写真の魅力は様々ありますが、今回はグラフィックデザインとして捉えた写真をご紹介しました。その魅力は、自分の身の回りを色や形や面で捉えることであり、今まで見ていた視点とは違う視点を発見できることだと思います。無意識だったものに目を向け、見過ごしていたものを認識できること。その発見に感動と喜びを感じ、デザインに深く触れていない人たちにも伝わる美しさを秘めていると思っています。


山越今日子 / Kyoko Yamakoshi
Chief Designer/ Dynamite Brothers Syndicate


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

HP : https://d-b-s.co.jp