クリエイターが影響を受けた一枚 #建築

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、クリエイティブの世界で活躍するアートディレクターやデザイナーが影響を受けた写真家を紹介します。第四回は、デザイナー・水流麻美が「建築写真」についてお話します。


THEME:建築

「建築:建物や居住空間をデザインすることであり、それ自体がアートである」

きっかけは、ある建築設計事務所のプロジェクトに携わった際のフォトグラファー探しでした。フォトグラファーそれぞれ被写体へのアプローチが異なり、ひとつひとつの建築に物語を感じ、それがとても奥深く、建築写真の数々に新たな刺激を受けたことを覚えています。今回、私の個人的な視点で魅力を感じる建築写真をご紹介したいと思います。

高橋ヨーコ

高橋さんを知ったきっかけは、Casa BRUTUSに掲載された展覧会の記事でした。柔らかくて温かくそして静謐な色彩によるフィルムを通した写真の数々は、良い意味で親しみやすくホッとします。デジタルでは表現できない空気感と高橋さんならではのキリトリに惹かれ、私自身Kodakのフィルムを買ってしまいました。

高橋ヨーコ

高橋さんの空気感の中で、この建築物の特徴といえる窓の直線部分がしっかり引き締まっていて、下の木々とともに安定感を感じる構図です。クールな建築物と暖かい空のコントラストも印象的で、窓に映る夕暮れのグラデーションなど細部まで心惹かれました。

西岡 潔

「なんだこのかっこいい階段!」とたまたま見つけた数多くの階段の写真に釘付けになったのを覚えています。

階段は建築の顔といっても過言ではないほど、個性を発揮できる場だと思います。思わず覗き込みたくなる曲線を活かした階段、潔さすら感じるまっすぐな広い階段など、個性あふれる階段の数々の魅力を最大限に引き出す表現が、素晴らしいです。

西岡潔

計算されたいびつな曲線が特徴の螺旋階段を広角レンズで撮った一枚。画面いっぱい大胆におさめており、力強さを感じます。斜め上から撮ることで下の階の曲線も魅せ、探究心がくすぐられます。

西岡潔

また西岡さんの写真をきっかけに、自分の階段の視点が変わりました。古い建物は特に手すりやパーツ、支柱など素敵なポイントが溢れており、今では旅行等で訪れる機会があるときに自分なりに注目して観察しています。

平野太呂

平野太呂

アメリカ西海岸の住宅地の廃墟と化したプールを撮り収めた写真集「POOL」の中の作品。「昔水がなみなみ溜まっていた時はどんな顔だったんだろう」というワクワクしたり、管理されていない草木や壁に描かれた落書きに少し切なくなったりと、感情がせわしなく動きます。絶妙な距離感と、平野さんならではの色彩感覚で床のピンクとプールのブルーも印象的に映え、プールの曲線ラインが強調されてとても美しいです。

STEFANO PEREGO(ステファノ・ペレーゴ)

STEFANO PEREGO

Twitterで見つけたイタリア・ミラノを拠点に活動する建築カメラマンです。のどかな風景の中に突如としてそびえ立つ建築物の存在感に圧倒されます。建築物自体が日本ではなかなか見ないデザインというのも心惹かれる一つの理由ですが、この直角と直線が特徴の建築物のダイナミックさを色相や構図で表現できていると思います。「頂上に二人入れたのにもどんな理由があるのだろう」「屋上もあるという建築の説明的断面なのかそれとも…?」この1枚でSTEFANOが伝えたいメッセージを考えさせられます。

建築写真と耳にすると少し堅苦しく感じてしまうかもしれませんが、SNSの普及やスマホのカメラ性能も良くなっているため、旅行で訪れたお寺や素敵なカフェの内装、こだわりの自分の家など無意識のうちに建築写真をおさめている人も多いように感じます。そして建築一つ一つに個性や美しさがあって、その部分をどのように魅せていくかの考察はデザインにも通ずると思います。それぞれの視点で表現できることはとても奥深く素晴らしい。建築写真を通して生まれた新たな視点をこれからも活かしていきたいです。


水流麻美 / Asami Tsuru
Designer / Dynamite Brothers Syndicate


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

HP : https://d-b-s.co.jp