クリエイターが影響を受けた一枚 #構図

編集思考とアートディレクションを武器に、企業やサービスの新たな価値を創出しているデザインコンサルティングファームDynamite Brothers Syndicate。日々、クリエイティブの世界で活躍するアートディレクターやデザイナーが影響を受けた写真家を紹介します。第二回は、アートディレクター・井上宏樹が「構図」について考察します。


THEME:構図

普段見ている景色や空間を、指で作ったフレームを通して見てみる。するとそこには、何もなかった空間にひとつの「形」が生まれる。そのフレームの切り取り方で、「形」の見え方も無限に変わってくる。写真は、言わばその空間をフレームに収めることで、何もなかったものを「形」に残すことができ、さらにそこには、見た人の解釈により色々なストーリーを宿すことさえできる。今はスマートフォンのカメラ機能でだれでも気軽に目の前の空間を切り取る事ができます。

例えばベランダにある観葉植物、葉の葉脈が鮮明に見えるくらいぐっと寄るのか、はたまた、背景にある空を思いっきり入れ、フレームの下の方に少しだけその植物を入れるのか。同じ対象物でも、切り取り方ひとつで、その印象は大きく変わり、伝えたい事、伝わってくるイメージががらりと変わってきます。

私が写真に魅力を感じる要素に、光や影、色彩など共に、「構図」によって惹かれることがあります。その対象物をどういうアングルで、どういう構成でフレームに収めるのか、その空間の切り取り方に写真から感じる魅力が詰まっていると思います。例えば、一枚のポートレート写真。人物を中央に置かず片方に大きく余白をとり、人物の目線はその余白の先を見つめている。そんな写真を見た時に感じることは、一つに、このバランスなんかいいなという無意識的で感覚的な魅力、もう一つは、この人物がどんなことを考えているのかその人物の心情を想像させられることがあります。このように、「構図」は見た人の感覚や想像に響かせることによって写真の魅力を引き立てるのではと思っています。

グラフィックデザインにおいても限られたスペースの中において、何をどう構成していくか、いわゆる「構図」というものはとても大事な要素です。デザイナーとしての自分も、その限られた空間をどう料理していくか、どう構成していくか、そこに面白みを感じています。

日本庭園に魅了を感じたり、部屋のインテリアに興味をもったりするのも、その限られた空間をいかに魅力的に構成していくか、そこ惹かれるからかもしれません。

デザインや写真に共通するこの「構図」、この後上げる二人の写真家さんは魅力的かつ印象的にその構図を表現していると私には映りました。


<鶴田直樹>

学生時代、私がデザインに興味を持つきっかけとなったもののひとつに、あるグループのCDジャケットがあります。なかでも、デザインはもとより特に写真に魅力を感じた事を今でも記憶しています。そのフォトグラファーが鶴田直樹さんでした。アングルや空間・余白の取り方、人物の立ち位置や顔の向きなど、その全てが斬新で強いインパクトを持って私の目に映り、純粋に「格好いい写真」と感じた事を今でも強く印象に残っています。それまでなんとなく見ていた写真に対し、はじめて構図やアングルを意識した瞬間でした。

鶴田直樹の作品

 そのCDジャケットの表紙を飾る1枚です。放射線状に広がる橋の欄干、中央に人物を置き安定感のある構図でありつつ、人物の顔をリンゴで隠すというポージング。この構図からは安定感のなかにも見る側を引き込むインパクトを与えているような印象を受けました。またウイッグの赤と空の青とのコントラストにより、一層この構図が強調されていると感じます。

鶴田直樹の作品

 下から煽るようなアングルがとても印象的な1枚。影で馴染んだ足元の黒が、このアングルをより引き立たせていると感じます。画面いっぱいを埋める人物による三角形のシルエット、後ろに小さく映る自由の女神、その対比による遠近感がまたこの写真の魅力であると思います。

鶴田直樹の作品

 広く大きく取られた空と海に、赤い傘が印象的に映えます。水平線、傘、そして人物の横顔、広い空間の中に横のラインが強調された所にも構図としての魅力を感じました。

<ソール・ライター>

ソール・ライターの写真には、構図を意図していると感じるものが多くあります。主役として撮影された被写体の手前には、あえて何かしらの要素を映り込ませている作品が多く、主役を引き立たせると共に、ごくごく自然な一瞬を切り取った、その空間における時間の断片を表現しているようにも感じ取れます。写真を見た瞬間にあたかもその場にいるような、ソール・ライターと同じ「目線」になった気さえします。周りに映り込む他の要素が言わばフレームの役割をし、主役をより注目させていると感じられるのです。

また、極端なアングルの作品も数多くあり、ソール・ライターは北斎を愛していたというエピソードがあるように、浮世絵のような大胆な構図や際立った遠近感があるのも、またうなずける話で彼の魅力のひとつに感じます。

Canopy  (1958)  © Saul Leiter Foundation

 手前に映り込むのは、彼自身が持つ傘なのでしょうか。画面半分以上を覆う傘からわずかに覗く雪の街の風景。この手前にある傘という他の要素があるからこそ、主役の雪降る街が一気に引き立つ、黒い大きな影が占めるこの極端なバランスが、雪の白さを一層際立たせていると感じられます。

Red Curtain   (1956)  © Saul Leiter Foundation

 窓越しから見る街ゆく女性。大胆な遠近感に魅力を感じる1枚です。手前にボケて映り込むカーテンと、街中を1人歩く女性。普段賑やかであろう街中には、車も人もほとんど映っていません。この極端な対比が緊張感や想像性をも生むように感じ取れます。

 Don’t walk  (1952)  © Saul Leiter Foundation

 DONT WALKの赤い文字、その下にあるグリーンの傘。この構図、対比がお互いを引き立てているように感じます。もし手前に傘がなく信号だけだったら、印象的な一枚にはならなかったかもしれません。よくある日常の風景も切り取り方ひとつで、その一瞬がドラマチックなものとなるように思いました。

出典元:「ソール・ライターのすべて」(青幻舎)

余談として…

葛飾北斎 『富嶽三十六景 東都浅草本願寺』

葛飾北斎 『富嶽三十六景 東都浅草本願寺』

画面手前に浅草の東本願寺本堂の大きな屋根、その奥に主役である富士山を小さく描く。この極端な遠近感が、主役の富士山を引き立てています。ソールライターの写真には、北斎の作品に見られるような大胆な構図を彷彿とさせるものがあるように感じます。

今回は、「構図」という視点を通して私が影響を受けた写真を紹介しました。私なりに構図を感じたこれらの作品も、それを意図せず感覚的に撮られた作品もあるかもしれません。デザインにおいても、たまたま並べた形や色が偶然にも絶妙なバランスを作り、印象的なデザインが生まれることもあれば、ある程度計算されたセオリーに則って生まれるデザインもあります。

意図して作りあげる「構図」、偶然に生まれた「構図」。それぞれに良さがあると思います。後者は意図していない時点で「構図」とは言えないのかもしれませんが、写真を見た側が、口では表現できないけどなんかこのバランス良いんだよなと感じる裏には、撮る側・見る側、誰にも見えていない無意識的な「構図」が隠れているのかもしれません。


井上宏樹 / Hiroki Inoue 

Art Director / Dynamite Brothers Syndicate

ファッション誌や百貨店カタログ、ビジネス誌などのエディトリアルデザインの知見を豊富に持ち、アートディレクターを歴任。企業のインナーブランディングの浸透や、ライフスタイル文脈でどのようなコミュニケーションデザインが果たせるかを発想の軸に置き、コミュニケーションのトータルディレクションなど多岐に携わる。


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

HP : https://d-b-s.co.jp
Instagram : @dynamitebrotherssyndicate