クリエイターが影響を受けた一枚 #ヌード

THEME:ヌード

第一回にしては際どいかもしれないこのテーマ、最近個人的に気になっているので、取り上げさせていただきます。

きっかけは、某ビューティブランドのムービーディレクションのリファレンスとして、ボディケアアイテムの使用感を見せるための美しく健康的なボディラインの資料を探していたことでした。美しい写真の数々に魅了されながら、ヌードとは、人間のありのままの姿を表現するもの、生命の神秘まで表現できる奥深いものだなと改めて感じています。

また、被写体がシンプルであるがゆえに、フォトグラファーそれぞれのアウトプットの仕方やメッセージ性の違いが際立つのも、とても興味深いなと思いました。一方で、性的な搾取を目的としたヌードももちろん存在しますし、最近では#MeTooの流れで今まで見えていなかった問題が浮き彫りになったり、 アートとハラスメントの境界線について議論も沸き起こったりしています。
そんな昨今だからこそ、女性デザイナーである私の個人的な視点で、 魅力を感じるヌード写真をご紹介したいと思います。


<ヘルムート・ニュートン>

彼のヌードは「パワー」。個人的には、ヌードといってまず思い浮かべるのはこの人です。強烈なインパクトを残す彼の写真は、「ポルノまがい」「女性嫌悪主義」という批判も浴びていたそう。この写真も多様な解釈がありそうですが、私はポジティブに受け取ります。デコラティブな背景とまっさらな身体のコントラストが美しく、さらにこのギプス。これが女性の儚さと強さをどちらも感じさせますし、シチュエーションとの違和感が絶妙です。そして、彼女の表情には自恃の念が伺えます。さまざまなストーリーを想像できるのが面白いです。ドキュメンタリー映画『ヘルムート・ニュートンと12人の女たち』を観て、ファッション写真とは新しい女性像を提示し、新しい価値を作るものなんだな、と感じました。「彼は自分の作品について議論が起こるのを楽しんでいました。この映画をつくった目的のひとつは、彼の作 品をもう一度見せることで、人々に考えてほしかったのです。」とのこと。彼の写真は、女性へのリスペクトに溢れ、女性をエンパワーメントし、勇気づけるものでした。 力強く生き生きとして、時にユーモラスな彼の写真が私は好きです。

Jenny Capitain, Pension Dorian, Berlin 1977 © Helmut Newton Estate

<パオロ・ロベルシ> 

彼のヌードは「ミニマル」。ファッション写真界の巨匠ロベルシ。大好きです。写真集『NUDI』の写真は、研ぎ澄まされた「白」の世界。8×10ポラロイドの狭隘な発色特性を利用した神秘的な白が映えて、柔らかく幻想的な世界を作り出します。独特の色彩や幻想的なイメージで、不動の地位を確率している彼でしたが、この作品では服や装飾品はもちろん、普段ファッション写真で多用される色彩や背景色などを全て排除しています。同じ画角で撮られたモデルたちが淡々と並ぶ構成。カラーでありながら極限まで色を排した無色の表現。とにかくシンプルに、女性のフォルムの美しさだけを際立たせたミニマルの極み。これぞヌードの真骨頂という感じです。 99年刊行ですが、今でも新しいと思えるモダンさ。は~、とため息が出てしまうほど、惚れ惚れします。 

参考サイト:https://sobooks.jp/books/10553

<野村佐紀子> 

彼女のヌードは「重み」。野村さんの写真には、「生と死」を感じるような作品が多いです。坂口安吾さんの小説『戦争と一人の女』と野村佐紀子さんの写真を組み合わせた本『ango』。町口覚さんデザインの小口がねじれた装丁は、小説の内容を反映しているようで、かなり衝撃的でした。他にも約100名の男性たちのヌードをメインにした写真集『愛について』など、ヌードの名作が多い気がします。オープニングと劇中に野村さんの写真が登場する映画『火口のふたり』、映画なのに、スチール写真が主役級の存在感を放ち、あのスチールがないと作品が成り立たないほどです。

『ango』 野村佐紀子 bookshop M

<松原博子>

松原さんのヌードは「壮大」。ファッション写真も大好きなフォトグラファーさんです。つい先日、写真集『mono』『mono ii』を刊行され、展示販売会を行っていました。 アーティストのソフィア・ファネゴとの共作で、身体の一部を大胆にトリミングし、彫刻作品のように、静かに、堂々と提示しています。こちらの写真は一作目『mono』から。和紙に印刷された写真集は、ミニマルでありながら、質感も相まって柔らかさや優しさも感じられます。身体がまるで広大な自然の一部を切り取ったようだったり、建築物のようだったり、別の生き物のようだったり。とても神秘的なものに見えてきます。 肌の凹凸、毛穴やシワ、ざらつき、ほくろなどのありのままの質感が、角度によって光を受けた和紙の細かな 繊維と重なり、とにかくとても美しく、生命力を感じさせます。トリミングもすごく横長だったり、正方形だったり、見開き全面に印刷されていたり、ポツンと小さかったり。配置のリズムや時々挟まれるブルーのハッとする鮮やかさが素晴らしく、デザインにもかなりこだわられ ていることが感じられます。冒頭に挟まれるBRIT PARKSの詩が、さらに想像力を拡張してくれます。

『mono』Sofia Fanego / Hiroko Matsubara

<花盛友里> 

花盛さんは、とにかく「ポップ」。写真やアートに馴染みのない女の子目線でも「可愛い」と思える、新しいヌードのジャンルを築いたかただと思います。花盛さんは、撮影中ずっと会話するように意識しているそう。だから、そこに映る女性たちの表情は、とてもナチュラルでチャーミング。写真集「脱いでみた。」は、一般女性をモデルとして自然体の姿を映し出し、コンプレックスを肯定し続ける、ポジティブなマインドにあふれた写真集です。ほくろも、シワも、妊娠線も隠さずに、ありのままを映す。ただ自然体であるだけでなく、ヌードだからこそ意味があるのです。

『NUIDEMITA - 脱いでみた。2 -』 花盛友里 ワニブックス刊

日本ではヌードというと、どうしても男性向けのものだとか、じめっとしたもの、性的なものというイメージが強いように思います。どんな文化的背景が理由にあるのか、気になるところです。昨今取り沙汰されているように、被写体に対する搾取が横行していた事実があるせいだったら、それは悲しいことです。  

でも、こうしてフォトグラファーの作品を羅列してみると、ヌードって神秘だなと思いませんか。究極に削ぎ落とされた形で、人間の美しさを表現するアート。セクシャルなものからは切り離したところで、ヌードが 表現できることが無限にあるということを、多くの作品を見れば見るほど感じて、わくわくします。そして何より、被写体をリスペクトし肯定するムードに溢れた作品ほど、アウトプットは素晴らしいものになっていると思うのです。


大脇初枝 / Hatsue Owaki 

Art Director / Dynamite Brothers Syndicate

化粧品やファッションブランド、下着ブランドのビジュアル開発や・広告制作などで広く活躍。フォトディレクションを得意とし、スチルはもちろん、ムービーディレクションも手掛ける。ファッションの考え方とひとさじのモード感をベースに、女性の感性に響くデザインを目指す。

Twitter : @owaki_dbs


株式会社ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケート(DBS)

東京港区にあるデザインコンサルティングファーム。
ブランディング、デザインコンサルティング、ロゴマーク開発など幅広いフィールドで事業展開中。

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