ヤングトゥリーラジオ×CURBON RADIO「vol.03 松本昇大」2011年、独立した直後に…。

CURBON+で連載していた写真家・若木信吾さんと歴代アシスタントたちによる「ヤングトゥリーラジオ×CURBON RADIO」を記事化。若木さんのアシスタントを卒業後、アシスタントたちはどのようにして一人のカメラマンへと成長を遂げたのか、その仕事術は?その対談の一部をお届けします。第3回のゲストは松本昇大さん。

profile

若木信吾 Shingo Wakagi

写真家/映画監督。1971年、静岡県浜松市生まれ。ニューヨークロチェスター工科大学写真学科卒業。
雑誌・広告・音楽媒体など幅広い分野で活動中。浜松市の書店「BOOKS AND PRINTS」のオーナーでもある。映画の撮影、監督作品に「星影のワルツ」「トーテム~song for home~」「白河夜船」(原作:吉本ばなな)などがある。


Instagram:@shingowakagi 

松本昇大 Shota Matsumoto

1983年大阪府生まれ。写真家・若木信吾氏に師事。2011年より独立。
雑誌や広告などで活躍する一方、スポーツを題材に作品を撮り続け、写真作家としても活動の場を広げている。
主な個展に「The Loneliness of the Long Distance Runner」(VACANT 2014)、「HARDWORK」(BOOK AND SONS 2021)、「Flagstaff」(BOOK AND SONS 2022)など。
写真集「Flagstaff」(私家版)を2022年に出版。


Instagram:https://www.instagram.com/sho_ta.matsumoto/
HP:http://shotamatsumoto.com/
twitter:https://twitter.com/matsumotosho_ta

■晴れて独立!しかしその道は前途多難…!?

若木:2011年にアシスタントを卒業して、カメラマンになっているということなんですけど、まず、卒業後に1番最初にしたことってなんですか。

松本: 覚えてるのはずっとテレビ見てましたね。なぜかというと、東日本大震災が起こっちゃったんですよ。いきなり。だから、営業の約束をしてたこととかも全部ダメになったりとか、 営業のコンタクトも取れなくなっちゃったんですよね。だから、ひたすら家にいた記憶がありますね。地震が起こった日も揺れが収まってから営業に行きました。

若木:その日行ったんだ!

松本:そしたら、伺った先の編集部ではPCでみんなテレビの中継を見てて、僕もそこでニュースの映像を見て「これは大変なことになったな」と思って。で、慌てて帰ろうとしたら、もう道も大渋滞だし、街もパニックになってて。

若木:あれ、そうか、あの時ってもう卒業してたのか!

松本:多分卒業した直後なんですよね。何日か後とかに地震が起こって。だから、初めの1ヶ月ぐらいはそんな感じでしたね。

若木:そうかー。俺さ、恵比寿が事務所だったじゃん。本屋さんの2階。あの日、森本とかヤンくんとかみんないて。で、揺れて。もう「みんな外出ろ!」って言って出てたら、電柱とかめっちゃ揺れてたからね。みんな出てきて「やばいね」って言ってたんだけど、「カメラを中に忘れてきた!」ってなって(笑)。あまりにも急いで出たからね。そしたら、森本が「私取りに行ってきます!」とか言って。「やめた方がいいよ」とかって言う間もなく、取りに行ってくれて…。

松本:さすがですね。

若木:でも、揺れてても写んないだけどね、写真だから。動画機能もまだその頃のiphoneにはなかったから…。

松本:事の重大さに気づくのに、時間がかかりましたよね…。

■フォトグラファーとしての初めての仕事は?

若木:じゃあ、仕事開始するのはちょっと時間かかっちゃったんだね。

松本:そうですね。ちょくちょくは多分やってたと思うんですけど、それでもやっぱり自分からコンタクトを取って、ということが一切できなくなったのが1ヶ月ぐらいは続いてましたね。

若木:それから仕事を始めたのっていつぐらいだったの?

松本:いつだろう…。でも、その地震より前に仕事は始めてました。

若木:最初にやった仕事というのは、なんだったの?

松本:『GQ JAPAN』っていう雑誌です。現代美術家の森村泰昌さんのポートレート撮影でした。

若木:あ、そうだったんだね。

松本:『IMA』編集長の太田睦子さんからいただいたお仕事なんです。

若木:そっか、そっか。どうだった最初の仕事って?

松本:緊張しましたね。なんか普段全然緊張しないのに、森村さんのことは事前に本で読んだりとかしてよく知ってたんですけど。

若木:事前の下調べね。

松本:そうですね、そういうことしていった記憶はすごいありますね。

若木:俺も若い頃は、そういう下調べ全くしないで撮影に行ってた時代がすごい長かったんだけど、ある日やっぱり切り替えましたね。なるべく調べて行くようになった。

松本:でも…良し悪しですよね。

若木:調べてるからこそ、あまりにもビビっちゃうこともあるよね。調べても調べても全然分からない人もいるから、その距離感が広がっていくだけ、みたいなね。まあでも、絶対それは調べた方がいいなと思うけどね。

松本:そうですね。初めてお仕事いただいた日が、たまたまありがたいことに2本立てだったんですよね。

若木:すごいね、1発目で。

松本:今思えばすごいですよね。『GQ JAPAN』っていう雑誌と、もう1個は『BRUTUS』っていう雑誌で、ほぼ日さん(ほぼ日刊イトイ新聞)のイベントが日芸であるということで、そこで写真を撮るというお仕事でした。

若木:へえ、それはポートレートじゃなくて、ドキュメンタリーというか。

松本:ですね。

若木:すごい、じゃあ最初は割と時間かかっちゃったけど、いい滑り出しだったんだね。

■松本さんのブックの内容は?

若木:その後、仕事はスムーズに増えていった感じ?

松本:そうですね。営業に行けるようになって、お仕事もいただけるようになって…。その後はコンスタントにお仕事させていただきましたね。

若木:結構マメに営業に行ってたよね。

松本:結構行きましたね。

若木:営業の帰りに恵比寿寄ってくれて、「最近こんなブック最近作ってるんですよ」って見せてもらったりもしたしね。

松本:そうですね。ただ、僕のブックが箱根駅伝の選手を撮ったものだったんですよね。

若木:そうだよね、うん。

松本:作品のブックをもうジャンル問わず、どんな編集部でもそれでいってたんで、多分「なんだこいつ」みたいに思われてたのかもしれないですけど(笑)。

若木:それがよかったんじゃないの?ショウタといえば、やっぱりスポーツの写真が好きだから。個人的作品として、甲子園と箱根駅伝は毎年行ってるんだよね。いつからやってるんだっけ。

松本:若木さんのアシスタントになり始めた頃に、 お正月だけは100%休みだってことに気づいたんですよ。

若木:そうだね(笑)。わりとね。

松本:自分も学生のとき陸上をやっていて、ランナーのことはよく分かってるつもりでいたので、箱根駅伝の選手とか面白そうだなと思って。ただ、スポーツ選手を撮るのに、スポーツ写真みたいなことが僕あんまり好きじゃなかったので、 タスキを渡し終わった直後の選手のポートレートを撮りに行こうと思って、行き始めたのが始まりですね。

若木:なんか本読んでたよね。ランナーの…。

松本:アラン・シリトーの『長距離走者の孤独』っていう本だったんですけど、あれはすごく面白くて。走ってる時の心情、メンタル的な解放、孤独…。そういう描写が僕はすごく好きだったんです。 だから、作品のタイトルも「長距離走者の孤独」にしたし、初めての個展もそのタイトルにしましたね。

若木:自分の方向性を決めた本って言えるかもね。

松本:そうですね。

若木:意外と周りにはなかなかいないから、面白いと思う。

松本:そうかもしれませんね。多分、同じような物を撮ってる人って、多分あんまり周りにいないんだと思うんですよね。スポーツ写真で、有名な方とか、上手な方はたくさんおられるとは思うんですけど。そうじゃなくて、割と“普通の写真”をスポーツに持ち込むっていうのが、多分珍しかったのかなと思いますけど。

若木:うーん、そうだよね。だから、スポーツ選手のことを撮るというよりは、その個人に目を向けた感じというか…。

松本:そうですね。

若木:そういう視点が僕らとしても共通項が見えるので、すごくいい写真だなと思うんですけど。

松本:ありがとうございます。

■仕事を続けていく上で大切にしていることは?

若木:卒業してもう11年なんだね。仕事を続けていく上で、大切にしていることが何かあったら教えてください。

松本:昔は写真家として仕事をし始めた頃とかは、例えば有名な雑誌とか、有名なブランドの広告とか、表紙を飾るとか、そういう大きな仕事をしたいなっていうのが、やっぱり1番にありました。けど、今はどっちかっていうと、自分を必要としてくれる人と仕事したいなと思ってて、そういう仕事を大事にするようにしてます。

若木:そういう人に出会えてるっていうのは1番大きいよね。

松本:はい、それは運が良かったなとも思うし、大切にしないといけないことなんだろうなとは思ってます。でも、 カメラマンっていう人はみんな、写真が上手いのが当たり前だし、そこからのプラスアルファで多分変化があると思うんで、そういうことなのかな、と思ってます。

若木:そうだよね、一緒にロケ行ったりとかね。撮影の瞬間以外の時間を過ごすことが多いから。

松本:そうですね。

若木:最近って撮影にアシスタントを雇ったりしてるの?

松本:いや、していないです。メールで「アシスタントになりたいです」とかいただくこともあるんですけど、基本的に断るようにしてて。例えば、大掛かりで荷物を持ってほしいとか、そういうことはあるんですけど、 ただ、実際カメラの設定とかそういうカメラ回りのことは、結局自分でやっちゃうし、僕は割とクラシックな考え方というか…。それこそカメラ1つ首からぶら下げて、現場に行って、写真を撮るっていうのが、やっぱり1番いいなと思ってるんで、 基本的には1人で動くようにしてます。

若木:荷物持ってもらえるアシスタントを呼んだとき、気を使っていることって何かある?

松本:うーん…怒らないことです(笑)。

若木:まあそうだね。

松本:空気も悪くなるし、怒ったことで何かが改善されるわけでもないし、 ポジティブなことが多分なんもないと思うんで…。


今回は松本昇大さんのラジオ後編をお届け。
前編のアシスタント時代のエピソードはCURBON RADIOにて。
若木さんとアシスタントの対談シリーズはまだまだ続きます。
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