PENTAX × 写真家・小杉歩 対談|モノクロ専用デジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」は手にした瞬間からモノクロに浸れるカメラだった—。開発裏話も。

2023年4月に発売されたばかりのモノクロ専用デジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」。高校二年生でフォトグラファーへの道を志し、数多くの著名アーティストの写真を手がける若手フォトグラファー・小杉歩さん。

普段の撮影からモノクロ写真を取り入れている小杉さんと、作り手であるPENTAXの川内 拓(ひらく)さんの対談でモノクロ専用カメラの魅力について迫ります。ここでしか聞けない、開発裏話も?

小杉さんが「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」で撮影した写真と「モノクロ写真とはどういう存在か」について語るコラムはこちら。
>>「質感」をモノクロに落とし込む #写真家放談  新製品・モノクロ専用デジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」特別企画  |小杉 歩

PHOTOGRAPHER PROFILE

小杉 歩

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小杉 歩

大阪府出身。 1999年生まれ。
高校二年生でフォトグラファーへの道を志し、有名アーティストなどの写真を手がける。現在東京を拠点に活動中。

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PENTAX

1919年、眼鏡用レンズなどを製造するメーカーとしてスタートした「旭光学工業合資会社」(当時)が戦後の復興期に一眼レフカメラの開発に乗り出し、1952年には国産初となる一眼レフカメラ「アサヒフレックスⅠ」を発表、さらに1957年、正像で被写体を確認しながら撮影できるペンタプリズムを搭載した「アサヒペンタックス」を発売し、以降、世界から注目を集めるカメラブランドへと成長を遂げる。「誰もやらなかったことをやりたい」というモノづくりに対してのこだわりを持ち続け、数々のヒット商品を世に送り出している。

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―「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」を使ってみた素直な感想は?

小杉:最近のデジタルカメラならカメラの設定でモノクロにすることもできますが、モノクロ専用カメラを使うのは初めての経験でした。今回、K-3 Mark III Monochromeを1週間使わせてもらって気づいたのは、既存のカメラだとカラーも撮れるという選択肢があるので「今日はモノクロで撮ろう」と思っていても、無意識のうちに色彩ありきの画作りをしていたんだな、ということ。でも、このカメラだと撮れるのはモノクロだけ。すると不思議なことに、世界の見え方もモノクロモードになったんですよね。モノクロの仕上がりを想像しながら歩き回るようになったり、モノクロにふさわしい被写体や構図、光を探したり…。よりモノクロの写真を追求したい、という思いが沸き起こりました。

PENTAX川内:普通なら被写体を見つけてからどうアプローチするかを考えますよね。被写体ありきというか。でも、モノクロ専用機となると、逆にモノクロにふさわしい被写体をお探しになられたんじゃないでしょうか。

小杉歩さんの作品

小杉:まさにそんな感じでした!すごく刺激的な1週間でした。

PENTAX川内:他の作家さんにお話を伺っても、同じように新しい体験ができたとおっしゃるんですよ。また、「覚悟を持って撮影に出るようになりました」というお声も頂戴しました。

小杉:僕もこのカメラを握ったときに「モノクロの写真を撮るぞ」っていう決意のようなものを感じましたね。でも、1週間と期間が決まっていたこともあって、自室で一枚試し撮りして「修行が始まるな…」という気持ちにもなりました(笑)。いざ使い始めてみると、場面に応じて化けるカメラとでも言いましょうか。イメージ通り撮れれば味方、イメージ通りでないとなんだか自分が試されている気がするというか…。修行、は今回のケースだからこそ、という部分はあるかもしれませんが、このカメラを手にした方は、僕が感じた「決意」にきっと共感してもらえると思います。

―普段からモノクロで作品を撮影されている小杉さん。小杉さんにとってモノクロ写真の魅力とはどんなところにありますか?

小杉:カラーの写真だと色の組み合わせが重要ですが、モノクロの写真は被写体の輪郭や質感などに情報が絞られてくるもの。光の当たる角度によって、物体の質感や輪郭が変わっていくところが一番の魅力で面白いところだと思いますね。

小杉歩さんの作品

小杉:この写真は建物の解体現場を捉えたものなんですが、工事現場って何か造形を意識しながら建物を壊す訳ではないと思うんです。一個一個の破片が意図しない偶然の産物ですが、僕としてはその破片の輪郭も美しいと感じてシャッターを切りました。

―今、このタイミングでモノクロ専用機を開発した理由とは?

PENTAX川内:じつは、「開発したい」と最初に声を挙げたのは画質設計の担当者責任者なんです。先ほど小杉さんもおっしゃったように、既存のカメラでもカメラの設定を変えれば簡単にモノクロ写真は撮れるんです。しかし、シャドウが暗く落ち込むような悪条件下で撮影すると、その部分だけ黒く潰れてしまうことがある。ところが、本来のモノクロ写真はというと、暗く落ち込んだシャドウ部もきちんとグラデーションで表現された、隅々まで美しい写真であるはずなんです。そんな積年のジレンマの中で、担当者がこのたびモノクローム表現に特化したセンサーがあることを知り、何かできるんじゃないか、と思ったところから開発は始まりました。小杉さん、今回K-3 Mark III Monochromeで撮っていただいた画像は均一にノイズが出ていたと思うんですが、高感度ではあたかもフィルムで撮影したような粗粒子感を楽しんでいただけたのではないでしょうか。

小杉:おっしゃる通りです!普段から後処理でノイズを入れることが多いのですが、K-3 Mark III Monochromeは撮影の段階からノイズをより強めたいという気持ちになったほどです。自然とノイズをどんどん乗せていってましたね。被写体にもよりますが、ISO3200を超えたあたりからノイズが逆に強みになるような気がしました。夕方から夜にかけて撮影する時間が多くて、ISO128000ぐらいで夜に撮影するのも楽しかったです。

小杉歩さんの作品

PENTAX川内:そうですよね!カラーの世界ではノイズって常に悪者扱いされるんです。でも、それがモノクロやフィルムの世界だと、“粒状感”という名がついて一つの手法として認められる。それが、今回のモノクローム専用機を出すことによってデジタルでも楽しんでいただけるようになったのは、昔のフィルムユーザーの方にもご支持いただけるポイントなのかな、と思います。発表されてすぐ、ノイズが乗ったザラザラ系の写真も撮れるのはいいな、というお客様の声をたくさんいただきましたね。

PENTAX川内:ノイズを潰しすぎない、というところがこの機種の最大の魅力ではないでしょうか。もちろんノイズを消す方向に振ることもできますが、ノイズを消そうと思うとハイライトやシャドウの情報も一緒に失われるので、結果的にどんどんフラットになって潰れちゃうんですよね。そうなってくると、どんどんこの機種の良さというところが薄れてしまうので、解像感は残しつつも、立体感を失わない絶妙な塩梅のノイズリダクションを模索しました。K-3 Mark III Monochromeが得意とする場所、時間帯、被写体を撮りながら見つけていただくのも楽しみのひとつになるのかな、と思います。

小杉:ここ3-4年くらい、雑誌のお仕事ではフィルムカメラを使っていたんですが、今年に入った直後くらいからデジタルに移行したんです。フィルムって頭の中で仕上がりを想像しながら撮っていくものだと思うんですけど、デジタルの頭になってみたらプレビュー画面で出てるものを頭の中のイメージに近づけていくみたいな感覚になったんです。僕の中では、このカメラはフィルムとデジタルのちょうど間の存在のように思えましたね。フィルムからデジタルへの移行したことは、いろんなものの発想が一気に変わってしまったようで戸惑いもあったんです。その戸惑いを振り払ってくれるような軸となるものが欲しかったのですが、このカメラで写真を撮ることでその軸が見つかったように思います。

小杉歩さんの作品

―K-3 Mark III Monochromeで特に気に入ったポイントは?

小杉:画面上でトーンカーブを調節することで、好みの仕上がりに調節しながら撮影できるところがすごくよかった点ですね。写真をモノクロに仕上げるときは結構コントラスト高めにすることが多いんですけど、その仕上がりをイメージしながら撮影できましたね。あと、デザインもすごくかっこいいので、街中で持って歩いていると「一枚でも多くシャッター切りたいな」と気分が上がりました。

PENTAX川内:機能面だけでなく、デザインまで気に入っていただけたのはとてもうれしいです!今回はモノクロームというコンセプトに合わせて、モードダイヤルやカメラ内のメニュー画面をモノクロで統一したり、カメラの上の部分の表示パネルも白色のバックライトにしたりするなど、デザイン面でもモノクロの世界観にこだわりました。撮るときの気持ちの高揚って大事ですから。まずは、モノクロの楽しさを知ってもらうためのツールとして親しんでいただけるのが一番ですね。

小杉:カメラ内でコントラストを上げたとき、撮って出しの状態でもハイライトがすごく繊細に表現されていたのも印象的ですね。こんなにコントラストを高めても、こんなにきれいに描写してくれるんだって。自分が感じた迫力を忠実に再現してくれる、素直なマシンだと思いました。

PENTAX川内:通常のカラー撮影のデジカメ機種だと、感度12800を超えたあたりから明らかにノイズが目立ってきて、画像が荒れるんです。でも今回、低感度から高感度まで満遍なくお使いいただいても、そういったギャップをあまりお感じにならなかったのではないでしょうか。どれも等しく美しい描写だったはずなんです。

小杉:そうですね!どんな感度であっても、シャドウからハイライトまで申し分なくきれいな描写でした。

PENTAX川内:普通の機種だといわゆる実用感度に感度に気を使いますが、このモデルだとそれがない。これは設計者の努力の賜物ですよね。

小杉歩さんの作品

―ここだけの開発裏話などお聞かせいただけないでしょうか?

PENTAX川内:K-3 Mark III Monochromeに今回採用したイメージセンサーを積めたのは、奇跡的な条件の一致があったんですよ。「こういうのを作りたい」という理想があったとしても、いざ実現するにはその部品をどこかから調達しないといけない。自社では生産してない部品で、しかもイメージセンサーなんてカメラにおいては最重要デバイスですよね。「なんとしてでもこのカメラを作る」という情熱で部品を探していたらたまたま、APS–CサイズでK-3 Mark III Monochromeに使えるものがあった、という奇跡的なストーリーです。

小杉:なるほど!それでAPS–Cなんですね。

PENTAX川内:フルサイズじゃない、というところはやはり若干引っかかるポイントではありました。それでも、実際にテスト機を組み上げ、普段からお付き合いのある作家の方に試してもらったら「これだったら僕の作品もしっかり撮れます!」とお墨付きをいただいたんです。もし「こういうモデルの方が絶対売れるから」という視点で部品探しをしていたら、部品が見つからず開発は終わっていたかもしれません。けれども今回は「どうしてもモノクロ」という思いが先に立った。巡り合わせですよね。モノクローム専用センサーはちょっと驚くようなお値段でして、じつはかなり予算を切り詰めて作ってます(笑)。

小杉:どうしてレフ機で、どうしてAPS–Cなんだろうというのはずっと気になってましたが、そんな舞台裏があったなんて…。

PENTAX川内:しかも、手に入ったセンサーは、我々が期待する絵を吐き出してくれるセンサーでした。本当に運命的としか言えません。そういった経緯もあって超小ロットですが生産が可能になったわけです。一つひとつのプロダクトとひたむきに向き合う工房的なものづくりで、少数でもその製品を喜んでいただける方々のために特殊な、特別なものを作ろう、という流れが会社全体で始まっているのもひとつの後押しになったのかな、と思います。

小杉歩さんの作品

―このカメラを一言で表すとしたら、どんなカメラと言えますか?

小杉:誤解なくお伝えできるといいんですが、“腐れ縁”のようなものを感じました。毎日毎日持ち歩くカメラではないかなとは思うんですが、何日かに一回はちゃんとこのカメラを持って行きたい、この先いつまでも離れられないカメラなんだろうな、という気がしますね。

PENTAX川内:自分の頭で考えて結果を導き出すから、若干不便なカメラではあると思うんです。

小杉:そうですね、今の時代を基準にすると…。

PENTAX川内:そういう不便さをあえて楽しむカメラなんですよね。このカメラを使うことによって、忘れていた何かを思い出して、モチベーションを高める。そんなカメラなんだと思います。初めて使ったのに腐れ縁を感じたというのはうれしいお言葉です。

小杉:1週間という短い間でも愛着が湧きました!

PENTAX川内:我々が目指しているところって、単に記録する道具ではなくて趣味を楽しむための相棒を作りたいっていうところなんですよね。それを目指すわたしたちにとって、愛着が湧いたというお声はメーカー冥利に尽きます。カメラというひとつのマシンではありますけど、K-3 Mark III Monochromも相棒という感覚で使ってもらえたらうれしいですね。


2回にわたりお届けした、新機種「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」の特集。“手に取った者だけが実感する”その使い心地はきっと、想像を超えるものとなるはず。街で見かけたらぜひチェックしてみてくださいね。

【製品情報】PENTAX K-3 Mark III Monochrome

2023年4月28日、リコーイメージング株式会社より発売のモノクローム専用イメージセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」。

製品ページ:https://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/k-3-3-mono/