写真家とクリエイターの交差点 vol.02 三森いこ×みなはむ / 作品制作の舞台裏
写真家とクリエイターがコラボレーションし、1つの作品を作り上げる過程を追う企画『写真家とクリエイターの交差点』。第2回目のゲストは、写真家の三森いこ、イラストレーターのみなはむ。
三森が被写体を撮影し、その姿をみなはむがイラストに描き出すーー
そんなユニークな方法でのコラボレーションとなった今回の作品。
これまでにない作品はどのようにして生まれたのか、そして普段は、表現者として交わることのない二人をつないだ意外な共通点とは。制作の舞台裏とそこに込められた想いに迫る。

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Photographer

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三森いこ(みもり・いこ)
1998年神奈川県横浜市生まれ。明治大学情報コミュニケーション学部卒。フオトグラファーとして活動中。ポートレートをメインに作品を制作している。2023年に初個展「ここでまた会おうよ」を開催。2024年7月、初個展の続編となる個展「この星の中」を開催、初の写真集を発表。
@iko_mimoriIllustrator

Illustrator
みなはむ
1995年生まれ。東京都在住。武蔵野美術大学日本画学科卒業。絵画を展示するなどの活動を続けるほか、装画を中心にイラスト・絵画の制作依頼を受け
る。作品集に『風の中みなはむ作品集』(パイ インターナショナル)、絵本作品に『よるにおばけと』『はるってなんか』(ミシマ社)がある。中国で作品集『画外音』(森雨漫)が刊行される。そのほか児童書の挿画挿絵や楽曲アートワークなどを手掛ける。

ーー今回のコラボレーションは、三森さんからの「みなはむさんとご一緒したい」という想いから実現しました。三森さんは、なぜみなはむさんとご一緒したいと思われたのでしょうか?
三森:みなはむさんの絵は、大学生くらいの頃からSNSで見ていて、すごくいいなと思っていたんです。ちょうど私が写真を始めたのも、みなはむさんの絵を知ったぐらいの時期で、みなはむさんの作品にはたくさんの影響を受けてきたと思います。
当時は、お守りのように作品集を持ち歩いていて、みなはむさんが描いているような二人の人物を切り取った写真もたくさん撮っていました。だから、コラボレーションができるなら、ぜひみなはむさんとご一緒したいと思いましたね。

ーーみなはむさんは、最初に三森さんの作品を見たときどんな印象を受けましたか?
みなはむ:このコラボレーションの依頼がきてすぐ、インスタで三森さんの作品を見たんですけど、そのときは、等身大の作風だなと思って。飾らないというか、それがいい感じだなと。
ーーコラボレーションのお取り組み前に、お二人は直接お会いされていますが、そこで感じたものや共通するものはありましたか?
みなはむ:写真家の人と会ったことがないから緊張しました。作品で受けた印象のとおり、率直な感じの人柄で、この人が撮ったものが、そのまま出てきているんだって思って感動しました。
三森:私は、みなはむさんの素性がまったくわからなかったので「あ、存在しているんだ」みたいなそんな感じでした(笑)。
みなはむ:確かに絵を描く人とかそうなりますよね(笑)。あと、私はもともと写真集が好きで、いろいろな写真家さんの写真集を持っているんですけど、写真集を参考にして作った作品集を、三森さんがボロボロになるまで読んでくれていたと聞いて、その当時やりたかったことが成仏した感じがしてすごく嬉しかったです。

みなはむ:それから、三森さんが『この星の中』という写真集を持ってきてくれて。この作品集はひとりの被写体を追いかけたものなのですが、それを見たときに「被写体と写真家の距離感」というか、密室的な危うさという魅力がすごい詰まっているなと思いました。私は、そういうものを追い求めていたので、この共通点が奇跡を目の当たりにしているような気がして、すごく心に刺さりましたね。

三森:そのときに作品の共通点として「人と人との距離感」というキーワードがでてきたんですよね。求めているものや見たい景色が同じなんだなと思いました。
ーー今回は、「三森さんが被写体を撮影し、その姿をみなはむさんがイラストに描き出す」というコラボレーションになりましたが、その方向性になった経緯について教えてください。
みなはむ:「距離感」というキーワードがでてきたときに「被写体と写真家の距離感がいい」という話になったのがきっかけですね。私は、人と人との密室的な距離感を絵でしか描けないので、写真でそれが現実になっているのがすごいという話をして。その距離感が好きなんだけど、絵にするってなったときはいつもその距離感を持っている二人をまとめて描くことが多いから、被写体と写真家の二人を描いたら、しっくりくるんじゃないかなみたいな感じでした。
制作過程
ーー撮影場所は、みなはむさんが提案されたんですよね。
みなはむ:そうですね。三森さんの写真集にも海が載っていたので、有機物的なものが多い場所の方がいいのかなと。初めて行く場所でもよかったのかもしれないのですが、「らしさ」みたいなものを出すには、知っている場所のほうがいいのかなって。私が知っている行きやすい海や川をいくつか提案して、最終的に野川に決めました。
ーー撮影の際、印象的だったことがありますか?
みなはむ:三森さんが、「ここ、かわいいかも」って言って撮影場所を決めてたのが、個人的に印象的でした、面白いなって。
三森:場所に対して、かわいいなって思っちゃうんです。だけど、みなはむさんは、場所に対して「かっこいい」って表現していて。そこが、逆に印象的でした。
みなはむ:そうですね(笑)。このとき言っていた「かっこいい」っていうのは、「一石を投じる」みたいな意味です。みんなが見過ごしがちな場所だけど、その場所が妙に気になる瞬間が私にもあって。その何気ない場所を絵にしたり、写真で撮ったりすることで、みんなを惹きつける場所に覆る感じがかっこいいというか。
三森:なるほど!すごく共感できます。
みなはむ:あとは、三森さんが自然体で撮影されていたのも印象的でした。勝手なイメージですけど、撮影のときにすごく集中して、殺気が沸く人もいると思うんです。でも、三森さんは、等身大かつ肩肘張らない感じで、さっとカメラを手に取って、「ここかわいいかも」って言って、「ちょっと立ってみて」「うん、いい感じ」みたいな。自然に沸いてきた感性を大切に、自然体で撮ったものだから、仕上がりも等身大なんだなと見ていました。

ーー三森さんは、今回の撮影をどのように切り取るか決めていましたか?
三森:散歩をしながら撮るときは、あんまり決めていくことはなくて。イメージを固めすぎずに、割とその場の雰囲気で、ちょっといいなと思った瞬間に撮るみたいな感じでした。カメラは、3つ持っていったけれど、より自然な表情が撮れるようにコンタックスの小さいフィルムカメラでずっと撮っていました。
ーーみなはむさんは、撮影を見ながらイラストの構成を考えていましたか?
みなはむ:私もそれはあまり決めずに、その日の雰囲気をそのまま感じていればいいかなと思って。当日は資料用に写真を撮っていたので、後日それを見返して、「あのときこうだったな」っていう印象を1枚に落とし込もうと考えていました。
ーーみなはむさんは、三森さんが撮影したお写真を見てラフ制作を始められたんですよね。現像されたお写真を見たときは、どう思われましたか?
みなはむ:当日の雰囲気そのままだけど、でも、三森さんの写真だなって感じがして、面白さがありましたね。自分の資料写真と比べても、三森さんの写真には、素直さや透明感があるなと思いました。自分もその場所にいて見てたからこそ不思議な感覚になりましたね。
そういう印象も踏まえてまずは2枚、ラフを制作したのですが、振り返りながら描くのが絵日記の絵を描いているみたいで新鮮でした。

ーー2枚のラフを描く上で、意識したことはありますか?
みなはむ:当日の空気感がまとまっている感じの方がいいのかなって思ったんです。今回、撮っている人と撮られている人を絵にすると決めていたから、風景の真ん中に二人がいて、それをその日見たものが包んでいる…みたいな感じにしたいなと考えて、それからは自然とアイデアが絞られてきてこの2枚になりましたね。
ラフ①は、木越しに撮ってるのが、隠れてる感じがして面白いなと思って書きました。池のところで座ってる被写体さんを撮ってる三森さんを、私が後ろから木越しに撮っていたんです。

ーーでも最終的には、ラフ②を選んだんですね。
みなはむ:はい。たぶん書いていくうちに、作品に「抜け感」が欲しいと思ったのかもしれないです。それに、1枚で見せるなら、伝えたいことがこっちの方がまとまっている感じが強かったのでこっちかなと思って決めました。
完成
ーーお写真をイラストにするうえで工夫したことは何かありますか?
みなはむ:存在している人物をイラストにすることはあまりないので、どうしようかなと。被写体さんの目が隠れているんですけど、隠れていた方が密室的な関係になり、作品を見た人が「遠くから見ている自分とは別の世界がある」と思うかなと考えて、あえて隠すことにしました。

ーー作品の切り取り方でこだわったポイントはありますか?
みなはむ:見たものをそのまま切り取るのも好きだけど、なるべく今回は、デフォルメした感じにしたいなと思いました。
実際は、電柱があったんですけど、それを書くかどうか悩んで、最終的には書きませんでしたね。野川は、東京なのに全部隠れていて田舎のような感じだったんです。電柱とか電線の人工建造物があると街の中のような感じがするけど、それを取り払った方が、ちょっと離れた世界に来たような感覚があるかなと思って、入れなかったですね。
三森:なるほど。それでいうと、写真でも撮っていたひまわりを絵に入れていただいていたのが、嬉しかったですね。みなはむさんが書いてくださったイラストの場所自体は、ひまわりは咲いていなかったんですけど、絵の中にひまわりが入っていて、この日の1日を表してるんだろうなと思って、ほっこりしちゃいました。

ーー三森さんが、完成したイラストをみた印象について教えてください。
三森:ずっとみなはむさんのファンだったので、すごく嬉しかったです。あと、写真を撮っている自分を客観的に見たことがなかったので、写真撮るって相手のことを大事に見つめていて、すごくいい瞬間だなって思いました。
みなはむ:嬉しいです。そういう風に言ってもらえて。その日は、7月だったけど涼しくて、蝶々も飛んでいたり、いろいろな花が咲いてたり、キノコも生えてたりして、とても素敵な日だったので、写真にできないことをやった方がいいじゃないかなと思い、一枚にまとめました。
三森:確かに、自分が撮ってる写真は瞬間瞬間を切り取ってる感じだけど、そのすべてがまとまったのが、このイラストって感じがします。
最後に
ーー最後にコラボレーションしてみての感想を教えてください。
三森:みなはむさんの作品との共通点である「人と人との距離感」が活きるかたちで、コラボレーションできてよかったですね。あと、いつも撮影をするときは「自分と相手」って感じなんで、それを目で見ることは自分はできないんですけど、それを客観的に見ることができて新鮮でした。撮る・撮られるの関係って、すごく素敵な関係っていうのを改めて感じましたね。
みなはむ:普段、女性が二人いる絵を描かないので、楽しんで描けましたね。表面的じゃなくて、根本的にいいと思ってるものを共有できたことによって、写真とイラストでアウトプットは違うけれど、似ている思いがあるというのが要でしたね。写真とイラストで表現方法は違うけれど、「距離感」という共通点の繋がりや、この企画の構成を、ぜひ楽しんでもらえたら嬉しいです。
Photo:三森いこ
Illust:みなはむ
Model:五味 未知子
edit:田畑 咲也菜