加賀と刺身の「じゆうな写真」vol.1 ケビンス 山口コンボイ アフタートーク
かが屋・加賀翔さんとそいつどいつ・市川刺身さんによる「加賀と刺身の『じゆうな写真』」。
「vol.1 山口コンボイ」編は、おかげさまでたくさんの方から反響をいただきました。
■作品集
https://encounter.curbon.jp/gallery/kagasho-ichikawasashimi-1/
■メイキング
・前編
https://encounter.curbon.jp/special/kagasho-ichikawasashimi-2/
・後編
https://encounter.curbon.jp/special/kagasho-ichikawasashimi-3/
今回は番外編として、そのクリエイティブを支えてくださった写真家・向後真孝さんと、加賀さんの対談企画をお届け。
“稀代の男前”山口コンボイさんをさらに輝かせた「Xデー」のこと、加賀さんにとって写真とはどんな存在か…。二人がさまざま語ります。
PHOTOGRAPHER
PHOTOGRAPHER
かが屋 加賀翔
1993年岡山県生まれ。マセキ芸能社所属のお笑い芸人。相方の賀屋壮也と2015年にかが屋を結成。「キングオブコント2022」決勝進出。キングオブコント2019から3年ぶりに2度目の決勝進出。ラジオ・バラティ番組の他、2021年11月に初の小説「おおあんごう」を刊行した。2023年3月には池袋PARCO『3周年の壁を越えろ! プチ有吉の壁展』で初の個展を開催。
@kagaya_kaga @kaga_kagayaSUPPORT PHOTOGRAPHER
SUPPORT PHOTOGRAPHER
向後真孝
1992年生まれ。歴史と文化人類学。写真と山。私作品「山とヒト」「月草」「我喜欢吃」。
@masataka_kougo https://masatakakougo.com/profile今回の撮影を振り返ってみて…
向後:加賀さんだけでなく、刺身さん、コンボイさんもみんな、すごく楽しそうでしたよね。その空気感も写真に如実に表れてるなと思います。
加賀:非常に楽しかったですよね!今日は向後さんにサポートしていただいて、等身大で写真を撮れました。分からないことを「分からない」って素直に言える空間は楽しかったです。
向後:後ろから僕にちょこちょこ言われながら撮るのはやりにくくなかったですか?
加賀:めっちゃありがたかったですよ!向後さんにアングルを提案してくださったり、設定も教えてもらったり…。追体験ですよね。こう撮りたかった、こんなふうにしてみたかったっていう一歩先を見せてもらえたのでそこが楽しかったです。
向後:もし本業のお笑いの方で後ろから何か言われたら、また違った受け取り方になるんですか?
加賀:僕はすごく素直な方かもしれないですね。例えば、100人が僕のコントを見て面白いって言ってくれてたとしても、101人目に「ここが気になる」って言われたら僕は修正します。僕はできるだけみんなが楽しい方がいいですし、意見は聞く方ですね。逆に言うと「何言ってるんだ!」って思ったときは、はなからふてくされてます(笑)。もう露骨に顔に出ちゃうんですよね。
今回撮影した3パターンの写真について
加賀:全部楽しかったですね(笑)。もしこの中から一番を選ぶとしたら「タイムトラベラーDJ」の椅子でふざけてるところと、椅子を愛でてるところ、「裸チャイナ」のハイキック…。あとはサングラスの覗きはドンピシャでしたね。すごく不思議な服のはずなんですよ。特に「タイムトラベラーDJ」の衣装は(笑)。
向後:今見てもやっぱりいいですね。
加賀:だってこれサイクリング用の服ですよ?でもそれがかっこよく見えるっていうのは、「みんなでコンボイさんを絶対かっこよく撮るんだ」っていう熱い思いの結集ですよね。「いいコンボイを撮るぞ」って。ストロボも向後さんにサポートしてもらいながら初めて本格的に使いましたが、面白さの連続でしたね。使い方によって遊び心のあるツールなんだなと思いました。
向後:「じゃあ今度はこんなふうに使ったらどうなる?」って発想が次々と生まれますよね。ストロボを焚いたときの加賀さんの反応は、今回すごくうれしかったことのひとつですね。じつはこれまで、ライティングの楽しさというものを実感することがあまり多くはなかったのですが、ちょっと設定を変えるだけでこんなに感動してくれる人がいるんだ、というのを目の当たりにして職人心がくすぐられました。
加賀:照明の面白さは衝撃的でした!
向後:今後加賀さんにもっと僕の思いを伝える機会があるとしたなら、なぜ撮るのかとか、そういったメンタル面のお話もできるといいですね。
加賀:いやーもう、ちょっと…。…向後さん、一緒にごはん行きましょうか(笑)。
向後:僕、山が好きなんで山もぜひ一緒に(笑)。山で撮ると互いの関係性が取っ払われることもあるんですよ。
加賀:僕、諸行無常とか好きなんでめっちゃ興味あります!なんで撮るんだろう、とかそういうのはよく考えますね。パソコンで自分が撮った写真を見てるとき、笑顔の写真が画面に映ると、僕もニコニコしちゃいます。その時間が好きです。芸人だからなのかどうかは分からないですけど、人が笑ってるのはすごく好きなんだと思いますね。
向後:僕はその一方で写真の力を過大評価してはいけない、ともよく思います。例えばですけど、写真1枚で戦争が止められるわけではないので、写真にも限界ってあるんですよね。さっき加賀さんが「笑顔の写真を見ると幸せ」とおっしゃいましたが、同じように僕も大きな舞台で有名な人を撮ることも光栄ですが、個人の記念写真などのご依頼となると、そのご家族が一生懸命働いたお金を頂いて、その人たちらしい、何代も残る家族写真を撮ることになる。そして喜んでくれる顔が見られる。そういうときこそ「自分が写真をやってる意味はこれなのかな」とよりリアルに感じますね。
加賀:なんか…うれしいですね…。こういう思いは誰とも共有してこなかったことなので…。
向後:僕は写真家として独立して5年目になるんですけど、人を撮る仕事において内面を見ようというのはずっと課題ですね。もう写真関係ないかもしれないですけど、加賀さんは精神性が素晴らしいですよね。人の本質をちゃんと見ようとしているし、何より「無条件にこの人のために力を注ぎたい」と思われる稀有な人間じゃないでしょうか。
加賀:今のマネージャーさんに聞いてもらいたかったです(笑)。なんで今に限って離席中なのか(笑)。めっちゃうれしいです…。
加賀:なんだかこんなに褒められて…。今がお昼で良かった…。もし夜だったらこのあと僕、公園うろうろしてたかもしれない(笑)。
向後:歩いてもいいと思いますよ(笑)。なんだかすごいところまで話が展開しました(笑)。
“純粋さ”を維持するということ
加賀:とてもありがたいことに今は芸人一本でやらせてもらってますが、もしかしたらバイトと掛け持ちで芸人をやってたときのほうがもっとガツガツしてたのかな…。写真歴と芸人歴は一緒ですが、写真は純粋にただ楽しくて、素の自分でいられるのかもしれないですね。
向後:何かを仕事にして食っていく、というのは社会の枠組みの一部にならざるを得ないっていうことだと思います。そこに焦点を当てて対応していくというか、そうしないと継続ができないというか…。
加賀:たぶん、僕はハングリーでいることがすごく好きなんですよね。僕は家庭環境があまり恵まれたものではなかったので、お金を稼がなきゃ!みたいな気持ちが人一倍強かったのかもしれません。芸人のお仕事はコンビでやっていて相手がいるからこそ、いいところも悪いところもあるんです。でも、写真だと一人でさらに自由でいられるから純粋さが保てているんでしょうね。
向後:いかに長く続けながらも純粋でいられるかっていう話は、写真家仲間ではよく話題になります。お金を稼ぐことや箔をつけていくことももちろん大事なんだけど、それが全てになると絶対虚しい人生だし…。でも、きっと加賀さんは写真に関して損得を外れたところで写真を撮ってるから、もしかしたら僕らみたいな専業の人間がたどり着けない境地に行ける可能性も大いにあると思います。ちょっとうらやましいですね。
加賀:なんか…非常に夢のある言葉をいただいたかもしれないです…。
向後:苦しいですよ。本当にいいものが売れるとは限らない世界だから。
加賀:今回の経験を通して、改めて写真家とは本当に大変なお仕事だなと思いましたね…。
“写真家・加賀翔”として
向後:今、写真のお仕事はどんなものがありますか?
加賀:『TVガイドPERSON』さんで連載をやらせてもらっています。たまに笑っちゃいますよ。ある号で誌面をパッと開くと見目麗しい三宅健さん、めちゃくちゃ完璧な加藤シゲアキさん、その次にうちの相方のザラッザラな顔がドーンと(笑)。あれは恥ずかしかったですね…。そうそうたるメンバーと共に戦う場である、ということをしっかり学ばせてもらいました。しっかり肌レタッチの要望も考えなきゃな、と反省です(笑)。最近は、どうしたら写真で個性を出せるんだろう?って悩んでるんですが、何か秘訣はありますか?
向後:写真の個性に関しては自分自身もずっと考え続けてきました。僕から何かアドバイスできるとしたら「原点を大事にすること」だと思います。無理をしないこと。自分がいいと思う方向とか、合ってるなって思うことを続けることが大事だと思います。
加賀:最近それができなくなってきてるんですよね…。僕はアンリ・カルティエ=ブレッソンとか、土門拳とかそういう写真家から影響を受けているので、単焦点のスナップが原点になるのかなあ。梅佳代さんみたいな、思わず笑っちゃうような写真集を作ってみたいんですよね。
向後:すごくいいじゃないですか!ライティングがどうこうとか、レタッチどうこうとはまた別次元の話ですから。
加賀:でも、ライティングは日々どんどん進化してるのに、それを無視する訳にはいかないって気持ちが自分の中で強いんですよね。そこも興味がありますし、全部知りたい欲求が強いかもしれない。これも撮ってみたい、あれもやってみたいっていう。
向後:いろんな手法をまずはやってみたり、真似てみたりする中で、取捨選択されていくことはあると思いますよ。「なんであんな自分に合わないことしたんだろう」っていうのはお笑いでもご経験があったかもしれないですが…。
加賀:あります、あります!
向後:それと同じで、いろんな写真家とか、いろんなビジュアルとかを見てこれを再現したい、みたいな感じで全然いいと思います。それを経て何を思うかっていうことじゃないでしょうか。
加賀:なるほど!向後さんは下積み時代はどのくらい写真集をご覧になりましたか?
向後:僕、じつは元々サラリーマンだったので、周りと比べて全然少ないと思いますよ。新卒で2年間ほど医療機器メーカーで働いてたんです。
加賀:えー!
向後:好奇心で突っ走ってきた感じなんです(笑)。そのあと貸しスタジオで働き始めてはじめてライアン・マッギンレーや、ヴォルフガング・ティルマンスの写真と出会いました。僕はそういうちょっと個性的な写真を撮る人から影響を受けましたね。数多く満遍なくというよりも、そういう写真家の写真を何回も見ました。
加賀:向後さんにもやっぱり原点っていうのはあったんですね。
向後:そうですね。撮り方は完全オリジナルです、とは言い切れないです。
加賀:写真とは果てしないものですね。
向後:だからきっと、分からないことだらけのまま人生を終えるんじゃないですかね。
加賀:「まだまだ知りたいことたくさんあったのに、もう人生終わっちゃうー!」みたいな気持ちが既にありますね…。何につけても“極める”ってすごく時間がかかることなのに、僕が今、極めたいと思ってるのはお笑いとカメラと文章の3つ。全然極まらないままもう30年も過ぎちゃってます。でも、全部は知らなくてもできる範囲でいいんだ、という考えは救いになりました。
向後:僕、山以外にも歴史が好きなんですけど、名だたる歴史上の人物は多くが「全部は分かんない」って言って一生を終えてるんですよ。豊臣秀吉の辞世の句で「露と落ち 露と消えにし我が身かな 浪速のことは 夢のまた夢」という句があるんですが、これは「朝露のように生まれ、我が身も水の玉のように蒸発して消えてしまう。大阪で起きたことは夢、幻のようだった」というような意味なんです。あの秀吉がそうだったんだから、と思うと力になると思いませんか?
加賀:全部を手に入れたかのような男でさえそんな風に儚く…。面白いですね。人生が一瞬だったって秀吉が言ってるのに、写真はさらに何分の一という一瞬のことですもんね。ああ、もうあっという間に時間が無くなっちゃいました。
向後:続きはまた近々、一緒にごはん食べながら話しましょうか(笑)。まだまだ深掘りしたいです。
4回にわたりお伝えしてきた、加賀と刺身の「じゆうな写真」vol.1。朝の「おはよう」から笑顔がこぼれ、終始抱腹絶倒の現場の空気感が少しでもみなさんにお届けできたでしょうか。
先日第2弾の撮影も開催!ゲストには野球好きのあの芸人が…!?みなさんからのゲストのリクエストもお待ちしております。どうぞお楽しみに。